キャンプと言えば焚火、焚火と言えば薪です。
薪は、キャンプ場だけでなく、最近は都会のホームセンターでも買えるようになりました。
一言で「薪」と言っても、杉などの針葉樹と、ナラ(楢)やクヌギ(椚)などの広葉樹の薪があります。特に広葉樹の薪は、火持ちが良く、煙も少ないので焚火に向いています。
ただ、多くの市販の薪は、焚火をするには太すぎて、燃焼効率の良い焚火台でもなかなか燃えないことがあります。
そこで、どうしても薪割りが必要となるのですが、今回は、ナイフを使って薪を割る方法を解説します。
割進めている時に、刃が薪に挟まって進まなくなったら、無理せず、上から楔(クサビ)を打ち込んでください。小枝を削って楔にしても良いですが、適当なものが無ければ、薪の中で割れ目にハマりそうな大きさのものを選んで、上の割れ目に差し込み、強引にこじれば薪が開くのでナイフを救出できます。
バトニングで薪を割る方法
バトニングで薪を割るのは、意外と簡単です。薪にナイフのブレードを当てて、上からスパイン(峰)を別の薪でぶっ叩くだけです。薪割台に薪を立ててナイフのブレードを当てて、スパインを別の薪で叩く |
更に叩いてナイフを薪に食い込ませる |
ここまで食い込むとスパインを叩いても進まない |
ポイント側を叩いて、更に薪に食い込ませていく |
グリップをしっかり持って、グリップ側が跳ね上がらないように注意 |
叩き割っていく |
ここまで来るとほぼ割れている |
最後は自然と割れる |
割進めている時に、刃が薪に挟まって進まなくなったら、無理せず、上から楔(クサビ)を打ち込んでください。小枝を削って楔にしても良いですが、適当なものが無ければ、薪の中で割れ目にハマりそうな大きさのものを選んで、上の割れ目に差し込み、強引にこじれば薪が開くのでナイフを救出できます。
実際は、これよりもっと大きな丸太状の薪を周囲から割っていく方法もありますが、ここでは、市販の薪を割ることを中心に解説します。
私がバトニングで薪を割ることをおすすめしない理由
実は、私は、ナイフを使ったバトニングによる薪割りは否定派です。はっきり言って、斧の方が安全かつ確実に割れますし、市販の薪を小割にする程度なら手斧(ハチェット)で十分ですので、ごっついナイフより安価です。
ですから、一番安価で使い倒せる組み合わせは下記の組み合わせになります。
ハスクバーナのヤンキーと、モーラナイフのコンパニオンヘビーデューティーMG |
手斧であれば、堅い広葉樹の薪を簡単に割ることができますし、モーラナイフのCompanion Heavy Dutyでも、針葉樹の薪であれば、バトニングで割れます。
※モーラCompanion Heavy Dutyに関する詳しいレビューはこちら
では、ナイフでの薪割りに私が否定的な理由は何かというと、本格的な焚火に使う広葉樹の薪は、とても堅くて割れ難いからです。特に、カエデ(楓)やケヤキ(欅)などの繊維質な木材は、薪割り専用のスプリッティングアックスでも、まともに割れないぐらい堅いので、ナイフで割ることは非常に困難です(詳しくはこちら)。
では、ナイフでの薪割りに私が否定的な理由は何かというと、本格的な焚火に使う広葉樹の薪は、とても堅くて割れ難いからです。特に、カエデ(楓)やケヤキ(欅)などの繊維質な木材は、薪割り専用のスプリッティングアックスでも、まともに割れないぐらい堅いので、ナイフで割ることは非常に困難です(詳しくはこちら)。
私がバトニングによる薪割りに否定的な理由が、もう一つあります。そもそも、ナイフは薪を割るための道具ではないからです。確かに「ブッシュクラフトの教科書(デイブ・カンタベリー著)」でも、バトニングで木材を割る方法が紹介されていますが、同書では斧を使った薪割りも紹介されており、「斧でできる作業にナイフを使うのは厳禁、と心得よう」と書かれています。
ナイフは、汎用性の高い刃物ですので、確かに薪割りも含めてなんでもできてしまう道具です。しかし、物理的な構造上の限界はあるので、それを分かった上で使わないと、ナイフを破損するだけでなく自分の身を傷つけることになります。
薪が割れるメカニズム
薪が割れるメカニズムは、斧とナイフでは全然違います。斧は遠心力、ナイフはてこの原理で割れます。![]() |
斧による薪割り |
斧は、図のように長い柄の先に斧頭がついており、それを円形に振り下ろすことで回転エネルギー(と位置エネルギー)を斧頭に集中して薪に当てます。斧が薪に当たった瞬間、斧のエネルギーが薪に伝わって、薪が割れます。
厳密にいうと、斧が薪に当たる瞬間に薪が斧を押し返す力が働くのですが、そのエネルギーは全て斧頭に伝わります(作用・反作用)。そのため、薪が固くて割れなかった場合は、斧が跳ね返されたように感じるのですが、これはまさに、斧のエネルギーを薪が跳ね返したために起こる現象です。
つまり、薪を割る時のエネルギー負荷は、ほぼ全てが斧頭に集中します。斧頭は鉄の塊ですので、人間の力で生み出したエネルギー程度では潰れることは無いので、普通に薪割りをしていれば斧を破損することはありません。
もちろん、柄の部分を薪にぶつけたり、斧頭がそれて石にあたったりすれば、柄が折れたり、刃がかけたりするので、確実に薪に当てるように注意しましょう。
一方、ナイフでバトニングをする場合は、てこの原理で割っていくことになります。
![]() |
ナイフのバトニングでの薪割り |
図のように、ナイフがある程度薪に食い込むと、ナイフのポイント(先端)近くを叩くことになります。バトニングによってナイフのブレードが薪を割ろうとしている時、ハンドルをもって押さえつけているため、ブレードの付け根にエネルギーが集中します。
叩くポイントが力点、ブレードが作用点、ブレードの付け根が支点となります。てこの原理では、支点が力点と作用点のエネルギーを全て支えることになるので、ナイフを叩いた力+ブレードが薪を割る力が支点に集中します。このように、てこの原理で支点にかかる負荷は、薪でナイフを叩いている以上の力がかかるため、ブレード付け根には予想以上の負荷がかかっています。これが、無理をしてバトニングするとナイフが破壊されてしまうメカニズムです。
よくあるサバイバルナイフで、ハンドル内に釣り針やワイヤーソーなどが入っているようなタイプがありますが、ブレードとハンドルの固定部分が弱いので、バトニングすると折れる危険性が高いです。
さて、バトニングではフルタングが必要と言われますが、物理的には必ずしもフルタングである必要はありません。グリップをもってナイフを押さえつけられるだけのタングの長さがあれば、グリップエンドまで鋼材が通っていなくても良いです。これは、最大の負荷がかかる支点は、あくまでブレードの付け根だからです。ただ、ナイフを叩いた時の衝撃は、タングからグリップ全体で受け止めることになるため、フルタングの方が耐久性が高く、グリップ全体の消耗を抑えることができます。
むしろ、フルタングと言えどもブレードつけ根の強度が低いとぽっきり逝きます。ですので、ブレード付近が細くなっているデザインのものは注意が必要です。
以上のように、てこの力で割るナイフでのバトニングは、思わぬ力がブレード付け根にかかることが、最大のリスクであることがお分かりいただけたかと思います。ブレード付け根以外でも、薪で叩くブレード先端近くも力が集中するので、薪から出ているブレード先端の長さが短ければ、負荷が集中しすぎて曲がったりする可能性があります。また、あまりに固い木だと、ブレードが薪に負けて欠けたり折れたり(割れたり)します。
バトニングナイフの選び方
私が一番使い込んでいる、バークリバーのブラボー1.5は、刃長が153mmと長いため、市販の薪なら余裕をもって割ることができる長さです。刃厚も5.5㎜あるので、耐久性に優れています(詳細はこちら)。また、バトニングは、とにかく力任せにぶっ叩くことになるので、ナイフの靭性(ねばり)と耐衝撃性が重要になります。炭素鋼や工具鋼系の鋼材は、硬度が高く切れ味は良いですが、靭性と耐衝撃性はステンレスに比べて低いため、場合によっては根元から折れたり、大きく刃が欠けたりすることがあります。そのため、ファルクニーベンF1のように、靭性の高いステンレスで硬度の高いエッジ鋼材を挟み込んだ構造のナイフは、切れ味と靭性・耐衝撃性が両立しているため、バトニングに向いています。そういった意味では、コールドスチールのマスターハンターサンマイも同様です。
また、金属は極低温下では、靭性が落ちるため割れやすくなりますので、真冬の北海道でのバトニングは注意した方が良いです(まあそんなことする人はこの記事を読む必要は無いでしょうが)。
ナイフの形状ですが、ドロップポイントや直刀などといわれるストレートなタイプが良いです。刺すことに向いているクリップポイントや、タクティカルナイフなどのようにスパイン側にも刃がついている物などは、ナイフの先端をバトニングするのに不向きです。
では、私のおススメのバトニングができるナイフをご紹介しましょう。
ファルクニーベン F1
高い硬度のVG10を粘りのあるステンレス鋼で挟み込んでいるため、耐衝撃性が高くバトニングに向いている。
ブレードが97mmと少し短いため、太い薪をバトニングするのには向かないが、刃厚があるので、モーラナイフなどに比べて遥かに薪を割る力に優れている。
(詳細はこちら)
全長:210mm
刃長:97mm
刃厚:4.5mm
重さ:150g
コールドスチール マスターハンター サンマイ三
VG1はVG10より切れ味では勝るが、耐摩耗性では劣る。
全長:235mm
刃長:117mm
刃厚:4.7mm
重さ:175g
リアルスチール ブッシュクラフト プラス
モーラのコンパニオンヘビーデューティーステンレスに使用されている12C27よりもエッジ保持力、硬度、耐食性がアップされている。
ブレードのグラインドは、フラット、スカンジ、コンベックスの3種類があるが、おすすめはコンベックスグラインド。
全長:240mm
刃長:113mm
刃厚:4.3mm
重さ:195g
ケイバー ベッカーBK2 コンパニオン
シースは、プラスチックシースはとても固く、ナイフを抜くのが大変なので、ナイロンシースがおすすめ。
欠点は、刃厚とトレードオフの重さ。
欠点は、刃厚とトレードオフの重さ。
(詳細はこちら)
全長:273mm
刃長:121mm
刃厚:6.6mm
重さ:426g
バークリバー ブラボー1.5
刃厚も5.5mmとバトニングには十分で、バランスの良いコンベックスグラインドは、見事に切れ味と耐久性を両立させている。
鋼材は、様々あるが、CPM3Vが最もおすすめ。CPM3Vは、米国のクルーシブル社が開発した粉末冶金工具鋼で、靭性が異常に高く、ブラボー標準のA2(炭素鋼)の約2倍、S35VN(ステンレス)の約3.5倍に達する。本来、粉末冶金鋼は、炭素鋼や一般的なステンレスに比べて脆いという欠点があったが、バークリバー社は、焼き入れ焼き戻しの熱処理において硬度よりも靭性を優先しているようで、チップ(刃欠け)の心配も無い。但し、粉末冶金鋼全般に言えることではあるが、とても研ぎ難い鋼材である。また、工具鋼のため耐食性はステンレスに劣る(油断すると錆びる)。
研ぎやすさを優先するのであれば、コスト的にも安いA2がおすすめ。CPM3Vほどの靭性は無いが、キャンプでのバトニングなら必要十分な性能を持つ。但し、炭素鋼であるため錆びには注意が必要。
(ブラボー1.5の詳細はこちら)
刃長:147mm
刃厚:5.5mm
重さ:262g
薪が割れないときは、引き返す勇気も必要
上記に挙げたナイフでも、時に割れない薪が出てくることがあります。バトニングの方法を説明したところでも書きましたが、いくら叩いてもナイフが進まなくなったら、無理せずナイフを取り出して、その薪は割るのを諦めましょう。無理をするとナイフを痛めるだけでなく、怪我にもつながり危険です。
販売されている薪は、一般的にはしっかり乾燥されており、木の繊維が締まった状態で堅くなっています。ですから、全ての薪がバトニングで割れるとは思わない方が良いです。特に、フシ(節)がある物は、絶対と言って良いほど割れません。薪が割れるのは、あくまで繊維に沿ってですから、繊維が複雑に絡み合っているフシは斧でも割るのが困難です。
以上、ナイフを使ったバトニングでの薪割りは、ナイフの限界に十分に注意しながら楽しんでください。
更にバトニングを深く楽しみたい方はこちらもご覧ください。
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