冬キャンプというと、最大の難関はやっぱり暖房です。
全国でも最も有名なキャンプ場と言えるふもとっぱらキャンプ場でも、1月の気温は10度を超える日は少なく、最低気温はマイナス10度近くになります。こんな気温下で、暖房無しでキャンプするのは苦行以外の何物でもありませんので、何らかの暖房対策が必要となります。最もメジャーなのは石油ストーブですが、灯油や携行缶を用意したりと、何かと面倒です。
そこで利用したいのが、カセットボンベ(CB缶)が使えるガスストーブです。CB缶であれば、コンビニでも手に入りますし、ボンベをセットするだけですぐに使えて便利です。難点は、出力が低くて、あまり暖かくない点です。そんなガスストーブの欠点を(ある程度)克服した製品が、イワタニの「デカ暖」です。
イワタニのカセットガスストーブシリーズ
イワタニは、CB缶対応のガスストーブを3種類発売しています。
マイ暖
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出典:岩谷産業 |
セラミックヒーターを、ガスの燃焼によって発熱させる、ポータブルガスストーブ。出力が低く、足元を温める程度。
最大発熱量:1.0kW(900kcal/h)
連続燃焼時間:約3時間20分
デカ暖
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出典:岩谷産業 |
イワタニ独自特許の「熱溜め燃焼筒」構造により、小型石油ストーブに匹敵する暖かさを実現。
最大発熱量:1.35kW(1,150kcal/h)
連続燃焼時間:約2時間30分
風暖(かぜだん)
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出典:岩谷産業 |
熱電素子により、ガスヒーターの熱で発電してファンを回す独自機構を持ったファンヒーター。そのため、ファンヒーターにも係わらず、電源が不要。
最大発熱量:2.0kW(1,720kcal/h)
連続燃焼時間:約1時間43分
単純に言って、マイ暖、デカ暖、風暖の順に高出力になり、引き換えに燃費が悪くなります。どれもCB缶を使っているので、ガス缶1本使い切ると、3.5kW(3,000kcal/h)の熱量を発生させることができます。実際、連続燃焼時間に対する総発熱量の理論値を計算してみると、マイ暖3.33kW、デカ暖3.37kW、風暖3.42kWと、殆ど変わらないことが判ります。
とは言え、単位時間当たりの熱量が少なければ、空間を暖める能力に劣るので、特に屋外での暖房効率には大きく影響します。平たく言えば、テントの中でガスストーブを使った時に、テント内をどれぐらい暖められるかが大きく違ってくるということです。
気になった私は、カタログスペックでは測れない暖房力の違いを、実験で確かめてみることにしました。
デカ暖はどれぐらいテントの中を暖められるか実験してみた
テスト方法は、ドームテント内でストーブを使用し、1時間でどれぐらいテント内を暖めることができるか確認してみました。
比較対象として、マイ暖と出力の近いニチネンのMr.ヒート(0.93kW(800kcal/h))と、トヨトミのレインボー(2.5kW)も使用して実験しました。
【使用機材】
Mr.ヒート(0.93kW)
デカ暖(1.35kW)
レインボー(2.5kW)
【計測器】
dretec(ドリテック) 室内・室外温度計
【使用テント】
ogawa アイレ
実験方法
実験は、自宅の庭にアイレを設営し、その中でストーブを点火、10分おきにテント内と外気温を計測しました。
テントは、フライシートを付けた方が保温性が高くなりますが、よりストーブの性能を際立たせるために、あえてフライシートは外した状態でテストしました。
温度計は、テント中央付近の高さ1mに固定し、ストーブは、輻射熱の影響をなるだけ受けないように、温度計からは1m離すように設置しました。
Mr.ヒート |
デカ暖 |
レインボー |
天候は曇り、ほぼ無風状態の日を選んで、日没後に実験を開始。
実験結果
10分毎の気温変化をグラフにしました。
開始時点での外気温がMr.ヒート9.5℃、ギガ暖9.1℃、レインボー8.3℃と若干違うので、完全な同一条件ではありませんが、温度差1.2℃ですから誤差範囲と言えるでしょう。
各ストーブの最高気温は、Mr.ヒート20.9℃、ギガ暖25.5℃、レインボー36.1℃となりました。
Mr.ヒートは最初の10分でほぼピーク温度に達し以下横ばい、デカ暖とレインボーは20分まで温度が上昇し以下横ばいとなっています。
考察
外気温と比較すると、最大差がMr.ヒートが約11℃、デカ暖が約17℃、レインボーが約28℃となりました。デカ暖とMr.ヒートの6℃差を大きいと見るか小さいと見るかですが、kWベースの出力差としてはデカ暖が1.45倍なのに対し、気温差1.54倍と出力差以上の値が出ているので、熱溜め燃焼筒の暖房効果については一定の効果はあると言えます。
ギガ暖はCB缶ガスストーブとしてはかなり暖かいですが、やはり石油ストーブのレインボーとは大きな差があります。イワタニの言う小型石油ストーブ並みというのは、やや誇張した表現と言わざるを得ません。
レインボーのテスト終了後、テントの天井付近はかなり暖かく、温度センサー等を吊るしていたカラビナがかなり熱くなっていたので、テストを継続していれば、40度以上になった可能性は十分にあります。
まとめ
デカ暖を空間を暖める暖房器具として使うには、やはりトヨトミレインボーなどに比べると無理がありますが、ドームテント内程度であればかなりの効果があります。アイレのインナーテントは、300×300×180cmとスクリーンタープ並みの大きさがありますから、スクリーンタープでも外気温プラス15℃ぐらいは望める計算になります。ですから、スクリーンタープや中型のツールーム程度であれば、デカ暖を本格的な暖房器具として使用するのはアリだと思います。
問題は、連続燃焼時間が2時間半と短いことですが、これは、Campingmoomのガス器具などを使うことで、ある程度解決可能です(詳しくはこちら)。
イワタニの特許である「熱溜め燃焼筒」ですが、かなり暖かく感じますし、本体も熱反射型の形状をしていますから、ストーブ前面なら1m前後まで熱を感じます。実験でも、セラミック式のMr.ヒートに比べて、1.54倍の気温差を発生させていましたから、熱溜め燃焼筒がガスストーブの高出力化に威力を発揮していることが裏付けられた格好です。
正直、これ1台で気温が常時マイナスになるような雪中キャンプは無理ですが、冬の平野部のキャンプ場であれば、デカ暖でも充分いけそうです。ふもとっぱらキャンプ場はちょっと厳しいかもしれませんが、それもテントとの組み合わせ次第だと思います。
デカ暖の上位機種である風暖は、出力が2kWとレインボー(2.5kW)に迫る値ですので、大型のツールームテントなどの暖房も視野に入りますが、CB缶1本で燃焼時間が103分とかなり短くなるので、そこまで高出力を求めるなら石油ストーブの方が良いでしょう。
最後に、テントの中でストーブを使う時の注意について一酸化炭素中毒が良く指摘されますが、正しい知識を身につけて対処することが重要です。こまめな換気と就寝時に消すことが推奨されていますが、正しくは、適正な換気を行いつつ使いましょうです。詳しくは、下記をご一読ください。
テント内でのストーブ使用は危険?一酸化炭素中毒について考えてみよう