【徹底検証】モーラナイフ ガーバーグは高い!?

2021年7月19日

ナイフ沼

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先日、知人から「ガーバーグってどうよ?」と聞かれ、返答に窮してしまいました。私が使っているナイフは、1~2万円台が多く、バークリバーなどは3万を超えますから、1万円ちょっとで買えるガーバーグは安い方です。一方で、モーラナイフのラインアップの中では最も高額で、スタンダードなコンパニオンヘビーデューティーの3倍以上ですから、どう考えてもコスパが悪いです。


出典:モーラナイフ


今回は、ガーバーグを題材に、果たして金額も含めて妥当なのか考えていきます。


モーラナイフ ガーバーグについて

基本スペック

先ずは、ガーバーグのスペックを整理していきます。


出典:モーラナイフ


  • 全長:約229mm
  • 刃長:約109mm
  • 刃厚:約3.2mm
  • 重量:約170g(ナイフのみ)
  • 鋼材:ステンレススチール(14C28N)/カーボンスチール(不明)
  • ハンドル:ポリアミド

ガーバーグは、元々ステンレスのみでしたが、2018年にカーボンスチール(以下炭素鋼)モデルが追加されました。


参考までにコンパニオンヘビーデューティーのスペックも整理しておきます。


出典:モーラナイフ


  • 全長:約224mm
  • 刃長:約104mm
  • 刃厚:約3.2mm
  • 重量:101g(ナイフのみ)
  • 鋼材:ステンレススチール(12C27)/カーボンスチール(不明)
  • ハンドル:ラバー

コンパニオンヘビーデューティーは、元々炭素鋼モデルのMGしかありませんでしたが、2019年にステンレスモデルが追加されました。


コンパニオンヘビーデューティーとの比較

ガーバーグは、コンパニオンヘビーデューティーと比べると、刃長が5mm長く、ハンドル素材がポリアミドに変更されています。ぶっちゃけ、刃長109mmと104mmは使い勝手としては変わりませんし、ポリアミドと言えば聞こえは良いですが、要するナイロン素材ですから、まあ、別に高価な素材ではありません。

一番の違いは、フルタングに近いラップドタングであることと、ステンレス鋼材が14C28Nという点です。バトニングで薪を割るには、フルタングは大きなアドバンテージですから、本格的なサバイバルに耐えるナイフと言えるでしょう。

また、鋼材に採用されているサンドヴィック社の14C28Nは、同社の12C27よりマンガンとクロムの配合を高め、耐食性と耐摩耗性を高めた素材です。一般的にクロムの添加量を増量すると炭素量が減るのですが、14C28Nは炭素含有量0.62%と12C27の0.60%より僅かに高めています。

切れ味については、鋼材の組成よりも硬度の方が重要になってきますが、モーラのスペック表には正確な硬度の記載がありません。モーラの米国サイトを確認すると、ナイフのロックウェル硬度はHRC58-60に調整されているとありますので、ガーバーグも同程度でしょう。HRC58-60というのは、ステンレス鋼ナイフとしては標準的、炭素鋼ナイフとしては少し高めと言えます。


ガーバーグのシースと価格について

さて、価格を確認してみましょう。ガーバーグは、シースのタイプ別に3種類がラインアップされています。


レザーシース

マルチマウント

スタンダード


ガーバーグ ステンレススチール

  • レザーシース:12,650円
  • マルチマウント:11,550円
  • スタンダード:9,350円

ガーバーグ カーボンスチール

  • レザーシース:13,750円
  • マルチマウント:12,650円
  • スタンダード:10,450円

※値段は全て10%税込


シースの違いによる値段差は、スタンダードからマルチマウントで2,200円、マルチマウントとレザーで1,100円の差となり、スタンダードとレザーでは、3,300円差と、コンパニオンヘビーデューティー1本買ってもおつりが来るほどの値段差になっています(笑)。

スタンダードは、単なるプラスチックですが、実用的には全く問題ありません。ナイフとしてのステータスを楽しむのであればレザーがベターですが、水濡れの心配が無いプラスチックの方が、キャンプなどのアウトドアには適しています。



問題は、マルチマウントです。スタンダードのプラシースをマウントベースにベルクロテープで固定し、更にマウントベースをベルクロテープでザックなどに固定するのですが、銃刀法に五月蠅い日本で、ナイフをザックの肩ベルトに取り付けて使うのは憚られます。


出典:モーラナイフ

私は、カンスボルのマルチマウントを持っていますが、結局マルチマウントは一度も使っていません(苦笑)。


とまあ、趣味性の高いマルチマウントは別にして、実用ベースで考えれば、一番安いスタンダードシースが良いでしょう。


ガーバーグは高いか安いか

さて、ここまでは、ガーバーグの詳細を見てきましたが、果たして値段通りの製品と言えるでしょうか。


確かに、ガーバーグは、フルタングに近いラップドダングですし、鋼材も14C28Nという上位鋼材を使用しています。でも、それが定価2,640円のコンパニオンヘビーデューティーとの価格差が埋められるかと言うと正直疑問です。フルタングですから、余分に鋼材がかかると言うのは分かります(重量差69g)。これは、想像ですが、コンパニオンヘビーデューティーはナロータングですので、1枚のナイフ鋼材から2本取れるとれるところを、ガーバーグでは1本しか取れないので、原料費が2倍以上になるのかもしれません。しかし、それでも定価が3倍以上になるのはいかがなものかと思います。

これが、炭素鋼だと尚更です。炭素鋼モデルはステンレスモデルより、更に1,100円高いです。ガーバーグの炭素鋼モデルは、ブラックコーティングが施されているので(コンパニオン等はコーティング無しのため錆びやすい)、これが1,100円高になっているのでしょうが、そもそも一般的には炭素鋼の方が加工がしやすく、安くなる傾向にありますので、これは納得しにくいです(-_-)。


実は、ガーバーグに近いスペックのナイフがあります。

リアルスチールの、ブッシュクラフトプラスです。



  • 全長:240mm
  • 刃長:113mm
  • 刃厚:約4.3mm
  • 重量:約195g
  • 鋼材:14C28N
  • ハンドル:G10

サイズはほぼ同じで、ブレードも14C28Nのフルタング。一番の違いは、刃厚が1ミリ以上厚い4.3mmという点です。よく、ガーバーグはフルタングなのでバトニングに最適と言われますが、バトニングで薪を割るには、ナイフの厚みも重要になってきます。薪を割るというのは、クサビのように押し広げて割るということになるため、刃厚が厚い方が有利です。ブッシュクラフトプラスの4.3mmという厚さは、刃長11cm前後のナイフとしてはまずまずの刃厚です。

実売価格も、1万円前後とガーバーグと拮抗します。唯一の欠点(?)は、中華製という点ですが、リアルスチールは米国のナイフメーカーで、品質管理もしっかりしているようですので、メイドイン~に拘りが無ければ問題にならないでしょう。


以上、ガーバーグを色んな角度から見てきましたが、結局どうなのよと言われると、正直微妙なナイフだと言わざるを得ません。私は、モーラナイフを7本持っているので、モーラの良さは充分知っているつもりです。


考察モーラナイフ 4本を比較 コンパニオンヘビーデューティーMG・ステンレス、ロバスト、プロ 違いと使い勝手をレポート


モーラの変わり種ナイフ カンスボルとブッシュクラフトフォレスト


モーラの最大のポイントは、抜群のコスパにあります。その中で、ガーバーグは唯一コスパの良くないナイフと言えます。また、刃厚が3.2mmというのは、バトニングメインのブッシュクラフトナイフとして考えると中途半端です。ビクトリノックスやオピネルのようなフォールディングナイフしか使ったことが無い人からすれば、充分ぶ厚いナイフに見えるでしょうが、広葉樹を思いっきりぶっ叩いて割るようなハードな使い方では、不安があります。

薪割とフェザースティック作りを両立したいのなら、ハクスバーナのキャンプ斧とコンパニオンヘビーデューティーの組み合わせの方がベターですし、2つ買ってもガーバーグより安いです(笑)。



じゃあ、ガーバーグは買う価値が無いかと言われると、そうとも言えません。モーラナイフのブレード形状は、伝統的なスカンジグラインドに近い形をしており、ガーバーグも鎬(しのぎ:ブレードのフラットな部分)が広いナイフです。鎬が広いということは、それだけブレードの厚い部分が多いということで、強度が上がります。また、エッジ角も鈍角なため、下手なコンベックスグラインドよりも、エッジ強度に勝ります。

私は、ファルクニーベンのF1をシースナイフのベンチマークとしているので、刃厚で言えば4.5mmが基準となります。そのため、ガーバーグに対してはどうしても辛口になってしまうのですが、頑丈で汎用性の高いナイフとして考えれば、決して悪い選択肢ではありません。


結局は、価格なんですよね~。

コンパニオンヘビーデューティーが安すぎるのではありますが、ガーバーグもせめて7,000円ぐらいならねぇ・・・。


ガーバーグを買って使い込んでみた


と、ここまで言いたい放題でしたので、欠席裁判も可哀そうですから、ガーバーグを買ってみました。購入したのは、一番安いスタンダードシースモデルです。


切れ味


ガーバーグは、他のモーラナイフと同様、箱出しでも充分な切れ味があります。コピー用紙を切ってみると、コンパニオンヘビーデューティーステンレスと同様の切れ味です。鋼材は、ガーバーグが上位鋼材ですが、仕上げ硬度と研ぎが同じなら切れ味もほぼ同様になるので、相対的に切れ味が劣る訳ではありません。


バトニング


フルタングですから、バトニングでどれぐらいの威力を発揮するか、真価が問われます。

と言うことで、広葉樹薪定番のナラを割ってみます。



5cm程の太さのナラ薪をバトニングしたところ、無事割ることができました。やはり、フルタングの安心感は、コンパニオンヘビーデューティーなどとは比べ物になりません。

ブレードをガツンガツン叩いてもビクともしない所は、ハンドルも含めて堅牢に仕上がっていると言えます。


ただ、色々割っているうちに、途中で割り進めることができなくなり、ナイフを取り出すこともできない事態に・・・



仕方が無いので、最強バトニングナイフケイバー ベッカーBK2で救出。

ベッカーは、刃厚が7mm近くあるので、薪を割る力は半端ではありません(笑)。


この後も、ナラの中でも特に固い物に関しては、ブレードは刺さりますがそれ以上割り進めるのが難しい薪がありました。そんな薪でも、ファルクニーベンF1に変えると、難なく割ることができました。



実は、これは予想通りで、刃厚がガーバーグより約1.3mm厚いF1は、薪を割る力がより強いので、固い薪でも割ることが可能となります。僅か1.3mmですが、これで割れる薪が明らかに増えます。



更に、F1は、ブレード形状がスパインからエッジにかけてフルフラットグラインドに近い形状をしており、エッジ近辺でコンベックスグラインドになっています。これは、クサビや斧に近い形状で、より薪割りに向いているブレードと言えます。



ナラ以外には、固くて繊維質の割れない薪の代表であるケヤキも割ってみましたが、柾目の筋が良い薪なら、比較的簡単に割ることができました。

この辺は、ブレードの総合力の高さを感じさせられ、フルタングナイフとしては合格といった所でしょうか。


フェザースティック


フルタングの剛性は十分解ったので、今度はフェザースティック作りです。

結果から言えば、モーラらしい切れ味で、気持ちよくフェザーを作ることができます。



杉のような削りやすい針葉樹だけでなく、ナラのような固い広葉樹でもフェザーが作れるので、切れ味のポテンシャルはかなり高いです。


ティンダーフェザーと言われる、より細かいフェザースティックを作る場合は、コンパニオンヘビーデューティーの炭素鋼モデルに僅かに劣りますが、それでも作れない訳では無く、あくまで細かく比較すれば違いを感じるという程度です。

おそらく、炭素鋼モデルのガーバーグであれば、更なる切れ味が期待できるでしょう。


耐久性

耐久性に関しては、明らかに差がありました。モーラの通常のステンレス鋼材である12C27のモデルよりも、ガーバーグは刃持ちが良いです。バトニングだけでなく、ナラをラフに削ったりしたのですが、殆どロールやチップは見られず、使用後にコピー用紙を切ってみましたが、使用前と殆ど変わらない状態でした。

私の感覚ですが、カンスボルでテストした時よりも、ガーバーグの方がダメージが少ないように感じますので、14C28Nの耐久性・耐摩耗性の良さが表れていると思います。


左がガーバーグ、右がカンスボル。ガーバーグの方がはっきりとしたマイクロベベルがある。


ただ、ガーバーグは、僅かにマイクロベベルが付いているので、その差が出ているとも言えます。カンスボルはマイクロベベルが無いため、エッジの耐久性に問題があります。

結局、12C27と14C28Nの差はあるのかと言われると、14C28Nの方が耐久性は良いが、エッジの研ぎ方次第でカバーできるレベルと言った所でしょうか。


総合評価

ガーバーグは、フルタングナイフとしての堅牢性を備え、本格的なバトニングからフェザースティック作りまでこなせる良いナイフと言えるでしょう。



切れ味も良く、握りやすく使いやすいナイフで、ステンレスですから耐食性もあるため、調理も含めてオールマイティに使えるナイフです。


但し、刃厚が今一つ物足りず、フルタングのスペックを十分に発揮できていないのも事実です。私の感覚では、市販の広葉樹薪を小割にする場合、ガーバーグで割れるのは7割ぐらいです。過去の経験から言えば、F1であれば9割、BK-2は100%ですから、それに比べると劣ります。



ガーバーグ=バトニングというイメージがありますが、フルタングだから薪なら何でも割れるという訳では無く、結局は刃厚やブレード形状など、他の要素も絡んでくると言うことです。

ガーバーグは、マーケットイン(ユーザーに求められて作られた製品)な所があり、刃厚とフルタングの堅牢性のバランスが些か欠けていると思います。


さて、コスパから考えると、まあ悪くはありません。F1は15,000円以上しますし、BK-2も1万円以上します。それに、BK-2は薪割りは得意ですが、それ以外には使えないナイフですから、最早ナイフと呼ぶのも憚られるぐらいです(苦笑)。

バトニングの場面を考えると、薪を全部小割にする必要は無いので、ガーバーグでも実用面では全く問題ありません。ですから、本格的なバトニングも楽しみたいというキャンパーの要望を考えると、ガーバーグは丁度良いナイフと言えるでしょう。


でもやっぱり、7,000円ぐらいが妥当な気がするなー














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