ファルクニーベン FI【日本生まれで北欧育ちの快男児】

2019年5月9日

ナイフ沼

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ファルクニーベンは、スウェーデンのナイフメーカーです。
このF1は、スウェーデン空軍に制式採用されており、パイロットは撃墜されたときはパラシュート降下して、捜索隊が到着するまでこのナイフ1本で生き延びろ!というわけです。
実はこのナイフ、製造自体は日本の刃物メーカー「服部刃物」に委託されている、Made In Japanのナイフでもあります。

Fallkniven F1

F1について

F1は、刃長97mmとモーラナイフのコンパニオンヘビーデューティーやバークリバーのブラボー1に比べると若干短いですが、刃厚は4.5mmと普通のシースナイフと比べてかなりの厚みがあります。エッジもコンベックスグラインド(蛤刃)に仕上げられており、箱出しでもシャープな切れ味を誇っています。実はF1は、箱出しではわずかなマイクロベベル(糸刃)が付いているので、完全なコンベックスグラインドとは言えないのですが、私は箱出しでも支障を感じませんでしたので、そのままで使っています。

Fallkniven F1

写真では分かりにくいかもしれませんが、エッジがわずかに光っています。この光っている部分が、コンベックス面からすると更に鈍角になっています。
また、コンベックスの形状についても、ブレードの途中まではフラットに近く、エッジ付近で急激なコンベックスに仕上げられています。F1はブレード材となるVG-10(V金10)という鋼材を420J2という鋼材で挟み込んだ形の3層構造になっているため、ブレードを良く見ると鋼材のつぎめの線が見えます。この線の近くから急激なコンベックスになっています。

VG-10は武生特殊鋼材という福井県のメーカーが製造している鋼材で、粘り気があり靭性が高く、バナジウムを添加して耐摩耗性、耐食性を上げてある高級刃物鋼材です。耐摩耗性が高い割には、研ぎやすいというのもこの鋼材の特徴で、ハードに使うナイフにも適した鋼材と言えます。余談ですが、福井県といえば越前刃物が有名で、江戸時代には、全国の鎌や鉈の生産量の3割以上を賄っており、日本一の刃物の町でした。今でこそ、日本国内の刃物生産量で岐阜県関市に1位の座を奪われていますが、越前打刃物に代表される優良な刃物を数多く生産しています。そんな背景もあって武生特殊鋼材は、様々な刃物用の鋼材を製造しており、その鋼材は多くのナイフや包丁に使われています。武生特殊鋼材のホームページを見ると、クラッドメタルという多層鋼材(心材を別の鋼材で挟み込んだ鋼材)も取り扱っているので、F1のブレードは、武生特殊鋼材で製造されたVG-10のクラッド鋼材を関市の服部刃物が加工してブレードに仕上げていると思われます。

F1スパイン側から
スパイン側から見ると、鋼材の色が微妙に異なるため3層構造になっていることが判る

余談の余談ですが、武生特殊鋼材の製造している鋼材には、スーパーゴールド2という粉末冶金鋼があります。スーパーゴールド2は、刃物の4大条件である高硬度、高靭性、高耐摩耗性、高耐食性のすべてを充足した超高級刃物鋼とのことです。
ぜひ、スーパーゴールド2を使ったF1を作って欲しい!!

Fallkniven F1

グリップは、素材はサーモランというプラスチック系素材ですが、かなり固く頑丈で、チェッカーが入っているので滑りにくくグリップも良好です。ただ、あまり厚みがなく平板な形状のため、握り心地としては今一歩という感じがします。このナイフが空軍パイロット向けということを考えると、標準のシースもプラスチック製で、全体に軽くコンパクトに作ることを意識されていると思われ、そう考えると平板なグリップも納得できます。
グリップ構造は、フルタングに近いラップドタングで、グリップエンドからタング部分が突き出しており、バトニングにも耐えられる十分な強度があります。

F1グリップ

切れ味

VG-10は高級包丁にも使用されている高性能なステンレス鋼材ですので、抜群の切れ味を誇っています。わずかなマイクロベベルが付いていますが、箱出しでも十分すね毛が剃れます。

耐久性

先にレビューしたブラボー1.5ブラボーEDCと比較すると、あちらは粉末冶金鋼ですので、鋼材の性質としてはあちらに軍配が上がりますが、F1も刃持ちが悪いということは無く、高い耐久性を誇っています。
むしろ、VG-10は、S35VNやM4に比べて研ぎやすいので、耐久性と研ぎやすさが両立していて使いやすいと言えます。
注意点としては、VG-10は硬度が高いですが、ラミネート側の420J2はあまり硬度が高くないので、固い木を削ったりしていると、エッジ部分は無傷でもブレードには傷が入っているなんてことが起こります。まあ実用品なので仕方がないですが、この辺はブレード全体を単一素材で作っているナイフの方に分があります。ただ、ラミネート構造は、包んでいる鋼材を心材より柔らかくすることで、ブレード全体の粘りと耐衝撃性を向上している点は見逃せず、そういった意味でも実用品としての全体バランスは良いと言えます。

握りやすさ・取り回し

F1グリップ上から見た写真

グリップが平板な形状のため、もう少し膨らみがあると握りやすいのですが、これは好みの分かれるところでしょう。むしろ、ヒルト部分(グリップの刃元)のスパイン(峰)側がブレード側にかかっているので、ここをランプ(指おき)として使えるので快適です。個人的には、ここの形状をもうひと工夫してもらうと更に良くなると思うのですが、ここはあくまで軍用ナイフということで仕方がないです。
サイズ的な面で言うと、刃長97mm、全長212mmと少し小ぶりで、重量バランスもわずかにハンドルヘビーになっており、ナイフ重量が150gと軽いこととも相まって、取り回しはとても良好です。

使い勝手


ブレード形状は、スパインがほぼ直線のドロップポイントですが、ポイントからのブレードのRがブラボーシリーズと比べると緩やかなため、魚を捌く作業はブラボーよりやりやすいです。特に、3枚におろすような作業では、ブレード面がフラットに近く、ポイント近くで急激にコンベックスグラインドになっている形状の影響か、身離れが良く、魚の骨のゴツゴツ感を指で感じながら捌くのには向いていると感じました。
野菜などを切る動作については、コンベックスで刃厚があるのであまり良好とは言えませんが、切れ味は十分ですので問題なく切れます。ブラボーなどと共通して言えるのですが、コンベックスの厚刃は、ニンジンやジャガイモなどの固い野菜が苦手です。特にニンジンは切るというより割るという感じになるので、切り口があまりきれいではありません。まあ、味は変わりませんが(笑)

総評

ブラボー1と比較すると、刃長で10mm、全長で18mm小さく、重量で59g軽いので、ベルトから下げていても持ち重りせず、取り回しも良好で使いやすいという印象です。刃長が97mmと少し短めですから、バトニングによる薪割では、あまり太い薪を割ることができませんが、刃厚は4.5mmと十分に厚く耐久性がありますので、クサビのように割る力には目を見張る物があります。実際に、F1を使っていて困ることはまず無く、高い実用性と耐久性をコンパクトにまとめた1本と言え、正に柔よく剛を制す日本の快男児のようなナイフです。

最後に1つだけ減点ポイントがあります。シースのグリップを留めるスナップボタンの金具がグリップに当たって傷が付きます。私は、ダクトテープで保護していますが、これぐらいはもう少し何とかしてよファルクニーベンさん!!

Fallkniven F1 シース

え?本革シースのバージョンもあるからそっちを買え?
勘弁してよ~



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