スパイダルコ デリカ4 VG10【ポケットサイズのベストナイフ】

2019年9月7日

ナイフ沼

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スパイダルコのデリカは、私が最もよく使っているフォールディングナイフです。
丁度手のひらサイズで、刃渡りも含めて最も普段使いに向いているからです。

スパイダルコについて

スパイダルコは、サル・グレッサーと妻のゲイル・グレッサーにより1978年にアメリカで設立されたナイフメーカーです。
サル・グレッサーは、ラウンドホール(サムホール)というブレードの丸い穴や、ポケットクリップなどの特許を取得し、ナイフ業界に革命を起こしたとも言える人物です。特にラウンドホールは、スパイダルコのシースナイフにもアイコンとして取り入れられており、スパイダルコの代名詞となっています。


ラウンドホールは、サル・グレッサーが様々なナイフユーザーにヒアリングをした結果、登山家やクライマーからグローブをしたままでも片手でオープンできるナイフを求められたことがきっかけとなりました。これに、ポケットに挿して簡単に取り出せるようにと、ポケットクリップをナイフに業界でも初めて付けた「C01ワーカー」を1981年に発表、以降のスパイダルコの製品を決定づけるエポックとなりました。

デリカについて

今回ご紹介するデリカは、エンデューラと並んでスパイダルコを代表する製品です。
デリカの最初のモデルは1990年に発売され、それ以来様々な改良が加えられ、現在の4代目であるデリカ4は2006年から販売されているモデルです。


スパイダルコの代名詞である、ラウンドホールが設けられており、ポケットクリップはねじ止めされています。ポケットクリップのネジ穴は、左右前後にも設けられているため、利き手などに合わせて自由に取り付け可能となっています。


スパイダルコには、様々な大きさのフォールディングナイフがありますが、私は中でもこのデリカが一番バランスの良いモデルだと思っています。折りたたんだ状態で10.7㎝と手の中に納まる大きさで、刃長65mm(ブレードタングまで入れると73mm)と、日用ユースとして荷造り紐の切断から段ボールの解体までオールマイティーに使えるちょうど良い大きさです。私も、休日などは何かとポケットに挿して日常ユースしています。この、日常ユースについて最も重要なポイントが重量です。デリカは重量わずか64gととても軽量で、ポケットに入れていても重さを感じさせません。


また、ハンドルもクリップを除いて10mmと非常に薄く作られているため、ポケットに挿してもゴロゴロせずとても快適です。スパイダルコは、ラウンドホールによる片手で容易に開くことが出来るという操作性ばかりに目が行きがちですが、重量、サイズ、薄さなど全ての点で実用性を追求しており、高いレベルでバランスの良い製品を作り出しています。

スパイダルコは、1つのモデルに対してバリエーションが豊富なメーカーで、デリカも、刃の形で、フルフラットグラインド(FFG)、セイバーグラインド、ハーフセレーション(半波刃)、フルセレーション(全波刃)などの種類があります。その中でも、現在一番ポピュラーなのがFFGですが、これもスパイダルコらしいこだわりのあるデザインになっています。


フラットグラインドとは、ナイフのブレード全体を平面に研ぎあげているデザインのことで、ブレードの断面がV字状になっています。フラットグラインドは、基本的にスパイン(峰)からエッジ(刃)に向かって平面に削っていきます。ナイフ鋼材は板状の鋼材ですので、これを削ってエッジを作り出すのですが、フラットグラインドは平面に研いでいくので、普通に研ぎあげると菜切り包丁のようなポイント(刃先)の無いナイフになってしまいます。そのため、ポイントを付けるためには、ポイントに向かって細くなるように削っていきます。ですから、ブレードの曲線は、V字の断面の角度と、刃先に向かってどれぐらいの角度で研いでいくかで決まります。


この微妙なブレードの曲線をフラットグラインドの角度で調整して削りだしているわけですから、高い加工精度が要求され、大変面倒な作業を行っているのです。一般的なフラットグラインドは、ポイント付近は正確にはフラットではなく、ブレード形状優先で微妙にカーブしていたりするのですが、スパイダルコは極めて直線的に削り上げており、フルフラットグラインド(FFG)の名に恥じない仕上がりとなっています(実際には僅かにコンベックスになっていますが定規を当てないと分からないレベルです)。


鋼材については、VG10が基本ですが、より錆びに強いH1や、より切れ味の良いZDP189もあります。私の持っているデリカはVG10です。

※ZDP189は、日立金属の製造が終了しているため、現在の流通在庫が無くなり次第、販売終了となります。


スパイダルコのナイフは、デリカを含め、多くのモデルが関市にある刃物メーカーのG・サカイで製造されています。G・サカイは、H1を使ったサビナイフでも有名な刃物メーカーで、武生特殊鋼材のVG10を使った高級包丁なども作っており、デリカにもその刃物作りのノウハウが遺憾なく発揮されています。
スパイダルコの創始者であるサル・グレッサーは、自分のデザインしたナイフを製造してくれるナイフメーカを全米中で探したのですが、彼の要求を満たしてくれるメーカーが無く、日本のメーカーを紹介されてやっと満足できる製品が作れるようになったそうです。
※最近は、米国内でもいくつかのモデルを製造しており、そちらも高い品質を誇っています。

切れ味

VG10は、ファルクニーベンF1でも書いた通り、切れ味と耐摩耗性、耐食性を高度にバランスした鋼材ですので、良く切れます。これ以上の切れ味を求めるなら粉末冶金鋼のZDP189となりますが、価格が1.5倍ほどしますし、切れ味としてはVG10でも十分切れます。
刃厚は一番厚い部分で約2.5mmと少し薄く、FFGのブレード形状とも相まって、食材などを切るのにも向いています。FFGはリニアにポイントに向かって細くなっているので、肉などを切っても食い込みが良く、ジャガイモやニンジンなどもきれいに切れます。
ちなみに、エッジにはセカンダリーベベル(小刃)が付いており、角度は40度になっています。もう少し鋭角でも良いと思うのですが、切れ味的には満足しているのでそのままの角度で使っています。

耐久性

耐久性も十分で、セカンダリーベベルが付いていることもあり、木を削ったりするようなラフな作業でも十分に使えます。
VG10は、硬度が高いステンレス鋼材としては研ぎやすい部類に入るので、研ぎ直しも楽ですので、私もガンガン使っています。

握りやすさ・取り回し


ハンドルはFRN(ガラス繊維強化プラスチック)で、蜘蛛の巣のようなデザインパターンの滑り止めが施されており、高いホールド性があります。
ハンドル自体は薄いので、決して握りやすくはないはずなのですが、指に合わせたハンドルのくぼみや、丸く角をおとしてあったりと、細かい所までデザインされているので、とても握りやすいです。


また、ラウンドホールの出っ張り部分に設けられたジンピング(滑り止め)が絶妙で、ここに親指をかけると、フェザースティック作りなどの細かい作業がやりやすく重宝します。

使い勝手

フォールディングナイフの基本である、片手で操作できるかという点においても、ラウンドホールのあるデリカはとても優秀で、好みもありますが、サムスタッドやボタンでオープンするタイプに比べて操作性は良好です。




ブレードのロック方法は、スタンダードなロックバックですが、ロックバーの押す所に窪みが設けられているため、ブレードを閉じる時も手触りだけでロック解除できるので、慣れるととても快適です。

ロックを外し、軽く下向きに振るとブレードが下がる

ブレードタングに余裕があるためエッジが指にあたって怪我をすることがない

ラウンドホールに親指を入れてブレードを閉じる


ロックも、かっちりとしたロックでがたつきも無く、確実にロックしてくれるので安心感があります。ハンドル内部には金属のライナーが入っているので、このライナーも剛性を高めるのに一役買っています。
このロックバックですが、相当な耐久性があり、勝手にロックが外れることは無く、無理に曲げると、ロックより先にブレードが破壊されます。

また、ブレードタング(ブレードのつけ根の刃が付いていない部分)が長めにとられているため、ブレードを閉じる時に指に当たっても怪我をすることがありません。一般的なフォールディングナイフは、刃長を稼ぐためにブレードタングを短くしたデザインの物が多いのですが、スパイダルコはスペック上の刃長よりも安全性を優先していることが良く分かります。

総評

スパイダルコは、非常に実用的なナイフ作りを行っているメーカーで、デリカも実用品として考え抜かれた構造とデザインになっており、自宅も含めて私が最も使っているナイフです。
サル・グレッサーは、ナイフユーザーこそがナイフ作りにおいて一番大切だと考えており、米国中の見本市やショーでユーザーの意見に耳を傾け、その結果、極めて実用性の高いナイフを生み出すに至りました。
デリカは、機能性・利便性・安全性の全ての点において高い性能を誇っており、まさにサルのユーザー本位の精神が宿っていると言えるでしょう。



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