スパイダルコ エンデューラ4 ZDP189【究極の実用性をもつフォールディングナイフ】

2019年9月7日

ナイフ沼

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今回取り上げるエンデューラは、前回のデリカより一回り大きいスパイダルコのナイフです。スパイダルコの歴史などは前回の記事を参照頂くとして、今回はエンデューラとデリカの違いをメインにご紹介したいと思ます。

左エンデューラ4、右デリカ4

エンデューラとデリカの違いについて

まずは、サイズを記載します。

【デリカ】
刃長:65mm
刃厚:2.5mm
全長(オープン):180mm
全長(クローズ):107mm
重量:64g

【エンデューラ】
刃長:88mm
刃厚:3mm
全長(オープン):221mm
全長(クローズ):126mm
重量:94g

エンデューラはデリカと比べると、刃長が23mm長く、クローズ状態で19mm長く、重量が30g重くなっています。形状的には殆ど同じで、まさに兄弟と言えるモデルです。刃長が80mmを超えているので、デリカに比べると調理の場面などではやはり使い勝手が良いです。グリップの厚みは、エンデューラが10mm、デリカが11mmと、僅かに厚くなっていますが、ポケットに入れた時の感覚は変わりません。


問題は長さで、クローズ状態で126mmというのは、胸ポケットに挿していると少し気になります。重量もわずかではありますが増えているので、ポケット内での持ち重りを感じるので、EDC(エブリデイキャリー)の観点からはデリカに軍配が上がります。
しかし、これは私のように2本持って比べれば分かる程度の差ですので、調理も含めたオールマイティ性を取るのであれば、エンデューラが最適解と言えるでしょう。

デリカの記事でもスパイダルコの実用性については書きましたが、エンデューラもデリカ同様に極めて実用性に振ったナイフです。
デザイン的には、一見デリカを大きくしたように見えますが、細かい所で異なっています。


ハンドルのブレードタング側はデリカより丸みが無く、ミリ単位で全長を詰める努力が伺えます。また、ハンドルの握りのくぼみも、グリップエンドの方だけ伸ばされていて、各くぼみの長さはほぼ同じにデザインされています。このことからも、グリップのフィーリングを最優先に、しっかりと調整されていることが分かります。


ブレードデザインは基本的にはデリカをそのままグリップ方向にストレッチしたデザインで、刃長が伸びた分、最大厚が3mmに増えています。こういった点からも、エンデューラもデリカも、基本的な設計思想は同じで、刃長に合わせて最適なように微調整していることが分かります。


ブレードに使われている鋼材についてですが、私の持っているエンデューラはZDP189です。デリカ同様、ベースモデルはVG10ですが、あえてより高級鋼材であるZDP189をチョイスしました。


ZDP189は日立金属が開発した粉末冶金鋼で、均一微細なミクロ組織で、大型の炭化物を含まないため、なめらかで切れ味の良い刃物を作ることができます。金属内に含まれる炭素は、高硬度で切れ味に直結しますが、大きな炭素(と言ってもミクロン単位ですが)が刃の表面に出ていると、紙を切った時などに刃に引っかかりを感じる原因となります。そのため、鋼材に含まれる炭素の粒子が小さければ小さいほど、引っ掛かりの無いなめらかな切れ味の刃物となります。
また、ZDP189は焼き入れ・焼き戻しにより、ロックウェル硬度66~68HRCという高い硬度(通常の炭素鋼でも62~64程度が限界)が得られるため、切れ味が良く、耐摩耗性に優れたナイフを作ることが出来ます。日立金属のカタログによると、標準的なナイフ鋼材の440Cに比べて、三倍の耐摩耗性を有しています。
また、耐食性にも優れ、塩酸などに対して440Cと同等の耐食性があるため、高硬度の割に錆びない鋼材と言えます。
さて、切れ味が良く、耐摩耗性と耐食性にも優れるZPD189ですが、弱点もあります。高硬度ゆえに靭性に劣り、割れやすい(欠けやすい)鋼材で、耐衝撃テストの結果では440Cの半分程度となっています。
また、耐摩耗性が高いがゆえにとても研ぎにくい鋼材でもあります。
とは言え、大同特殊鋼のカウリXが生産中止となった今、高硬度の刃物用粉末冶金鋼としてはとても貴重な鋼材で、日本国内では、これ以外には武生特殊鋼材のスーパーゴールド2しかありません。あとは、日立金属工具鋼のHAPシリーズがあり、最高硬度のHAP72では68-70HRCを誇りますが、耐食性には劣ります。

いずれにせよ、ZDP189は世界でもトップクラスの硬度を実現した刃物用鋼材と言えます。しかし、残念なことに、日立金属はZDP189の生産を終了しており、G・サカイもZDP189のデリカやエンデューラの製造を終了しています。
現在は、まだ流通に在庫があるため販売されていますが、早晩売り切れることは確実ですので、欲しい方はお急ぎください(苦笑)。

切れ味



さすがはZDP189です。凄い切れ味です。VG10のデリカよりも明らかに切れ味は上です。私が持っているナイフの中で最も切れ味の良い武蔵(青紙スーパー)と比べると少し劣りますが、おそらくセカンダリーベベルの角度の問題と思われます。エンデューラは、セカンダリーベベルが40度と比較的鈍角であるため、切れ味的には今一つとなっているようです。理論上は、ZDP189は青紙スーパーより高度を高められ、粉末冶金鋼の性質からも切れ味は良いはずなので、後日もう少しベベル角度を鋭角にして試したいと思います。

耐久性

耐久性は十分にあると思います。VG10のデリカと比べてどうかというと、正確にテストしたわけではないのですが、刃持ちはVG10以上です。問題の研ぎにくさですが、まあ人口砥石を使っている分には研げなくはないです。セカンダリーベベルにあわせて研げば、それなりに研げます。研ぎ時間はVG10の3倍かかりますが。
靭性に劣るZDP189ですが、今のところ刃欠けは無く使えています。石の上に落としたりすると逝ってしまうかもしれませんが・・・。

握りやすさ・取り回し



詳細はデリカの記事を参照していただければと思いますが、グリップ性はとても良好です。


グリップデザインが、人差し指と中指を1つめのくぼみ、薬指を2つめのくぼみ、小指を3つ目のくぼみへとあてることで、良好なグリップを生み出しています。デリカより全長が長い分は、小指以降の部分を長くしているので、グリップバランスが崩れることがありません。


ジンピング(滑り止め)も含めて人間工学的にも、考え抜かれたグリップデザインです。

使い勝手



これもデリカ同様、ラウンドホールを使ったオープン、ロックバックによるクローズともスムーズで、カチッとした良好なロックが、剛性の高さを物語っています。
グリップ内の金属製ライナーは、肉抜きされており、剛性を高めつつ軽量化を図っているところなど、まるで零戦のようです。
刃長が88mmと比較的に長いので、調理などにも使いやすく、オールラウンダーのフォールディングナイフとしては、まさに理想的なナイフと言えます。

総評

スパイダルコは、実用性を最優先しているので、切る、刃を食い込ませる、といった基本スペックから、ハンドリングの良さ、使い勝手、安全性と全ての面でエンデューラは文句の付け所が無いナイフです。


鋼材の性質から言えばZDP189は、切れ味だけでなく耐摩耗性が高いため、刃持ちが良く、頻繁に研ぐ必要がないため、逆に日常ユースでは初心者でも重宝すると思います。多少の研ぎにくさはありますが、それを補って有り余るでしょうし、研ぎに自信がなければ、G・サカイに送れば有料で研ぎ直してくれるというのも、普通の海外メーカーにはない心強さです。
靭性の問題はありますが、このナイフでゴリゴリこじるような使い方はしないと思うので、実用上は問題ないと思います(ゴリゴリやるならシースナイフを選ぶべき)。
確かに値段は高いですが、それでもこれより高くて使い物にならないナイフはいくらでもありますので、コスパは非常に良いと言えます。

既に書いた通り、ZDP189は製造が終了しているので、在庫のある今のうちに入手しておくことをおすすめします。






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