ワークマンのキャンプギア販売は失敗だと思う理由

2021年3月17日

コラム

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既にネット上でも話題になっていますが、ワークマンが、遂にメスティンやコンパクトチェアなどのキャンプギアを販売するようです。

このニュースを見て、私は「ワークマン、お前もか!!」と心の中で叫んでしまいました(苦笑)。



作業服主体の業態からスタートしたワークマンは、よりファッション性を高めたワークマンプラスを2018年9月より展開。2019年度には前年ベースで約2倍の売上を達成、2020年には、「#ワークマン女子」なるジェンダーレスの世界情勢にケンカを売るようなネーミングセンスの店舗をオープンし、今の所、飛ぶ鳥を落とす勢いのアパレルメーカーです。

ワークマンプラスを境に、アウトドア系ウェアに力を入れるようになり、ブロガーとのコラボレーションなどもあって、多くのキャンパーに支持されるようになりました。そこで、アパレルだけでなく、キャンプギアの販売も行っていくというコトのようですが、旧ワークマン時代から愛用している私としては、正直「どうよ!?」と思うのです。


メスティンに見るキャンプギアの氾濫

近年のキャンプブームの影響により、多数のキャンプギアが、様々なチャネルで販売されるようになりました。好例が、メスティンです。

メスティンの本家は、言うまでもなくトランギアで、日本では2017年頃から話題になりだし、その後大ブレイクした角型飯盒です。一時期は、アウトドアショップでも長期にわたって品切れが続き、2020年末頃でも、1人1個などの販売制限がかかっていました。


写真はダイソーのメスティン


メスティンは、角が丸くなった長方形で、素材もアルミですから、ある意味とても単純な形状です。そのため、簡単にパクることができ、様々なメーカーがメスティンを製造・販売しました。メスティン(messtin)の語源は、mess(軍隊の食事)とtin(ブリキ缶)から来ており、商品名では無く一般名詞のため、この角型のアルミ製容器を「メスティン」と称して販売することに権利的な問題が無かったことも大きな要因です。

その結果、ネット上には、中華製を主力とするメスティンが溢れ、ホームセンターやニトリ、果てはダイソーでも販売されるに至ります。ダイソーのメスティンは、本家より一回り小さい代わりに500円という破格の値段が話題になり、半年以上品薄状態が続きましたが、最近は何処の店舗でも在庫がある状態になってきています。2021年3月現在では、トランギアに拘らなければ、メスティンは簡単に入手できるようになりました。

さて、そんなタイミングで発表になったのが、ワークマンのメスティンです。既に、アウトドアショップ、ホームセンター、ニトリ、ダイソーと、ネット以外でも様々なチャネルで購入可能な状態(つまりレッドオーシャン)で、あえてワークマンがメスティンを販売する意味は、少なくともマーケティング戦略的にはありません。勿論、ワークマンのメスティンを手に入れたいというような、一部コアなファンはいるでしょうが、そのようなターゲティングは、ワークマンのビジネスモデルにはありません。


ワークマンのビジネスモデルは高機能・低価格というブルーオーシャン戦略

そもそも、ワークマンのビジネスモデルは、高機能で低価格な製品という、ブルーオーシャンでの勝負が奏功しているのです。


出典:ワークマン


これは、ワークマンのWEBサイトで自ら喧伝していることですから間違いありません。


私が愛用している「エアライトウォームパンツ」は、一見ジーンズのように見えますが、表は綿と化繊の混紡、裏はポリエステルのボア加工が施された防寒ズボンです。



私は、この防寒ズボンをかれこれ5年ほど使用しています。あちこち火の粉で穴が空いていますが、まだまだ使えますので、耐久性も充分と言えるでしょう。

一般的なジーンズなどのカジュアルウェアには、防寒性を高めたズボンは皆無と言えます。一方、モンベル等のダウンパンツは、生地が化繊のため、火の粉に弱く高額です。最近でこそ、グリップスワニーなどが難燃素材のダウンパンツをリリースしていますが、以前はありませんでしたので、ワークマンでこのズボンを見つけた時は小躍りして喜んだものです。


ワークマンは、そもそもプロフェッショナル向けのウェアを提供している会社です。プロ向けの製品というのは、機能性と耐久性があり、日常的に使い倒して定期的に買い替えることができる価格帯というのが前提となっています。

私の弟は、環境コンサルタント会社に勤めているのですが、職業柄、しょっちゅう山の中を歩き回っています。シカやイノシシと出会うことなど日常茶飯事で、クマに出くわしたことも何度かあるぐらいです。そんな苛酷な環境で働く人にとっては、レインウェアは必須になります。

ある時、モンベルのレインウェアを私が勧めたところ、「そんな高いもん買われへん。ワシらは、1年で着つぶすからワークマンで充分や」と言われました。藪漕ぎをすれば、どんなに耐久性のある生地でも擦れて痛むので、遅かれ早かれ穴は空くから、価格も含めてワークマンが丁度良いとのことでした。

ワークマンの標準的なレインウェアである「透湿レインスーツSTRETCH」は、耐水圧10,000mm、透湿度5,000g/m2/24hで、上下セットで4,900円。一方、モンベルの「サンダーパス」であれば、耐水圧20,000mm、透湿度15,000g/m2/24hと、カタログスペックでは2倍以上の性能差がありますが、価格は上下合わせて17,490円と3倍以上になります。

レインウェアも経費で購入する環境コンサルタント会社にとっては、調査員の人数分揃えなければならず、この価格差はバカになりません。勿論、もっと安いビニール雨具もありますが、それでは流石に仕事になりませんので、ワークマンの高機能・低価格というのが効いてきます。プロがワークマンを選ぶ理由がここにあります。


ワークマンのキャンプギアは本来のビジネスモデルに反する

ワークマンの製品は、プロフェッショナルにも通用する機能性と耐久性があり、それがランニングコストも含めて最もコストパフォーマンスに優れるから、他社との差別化ができていました。

ところが、今回のワークマンのキャンプギアは、高機能で低価格な製品というのにはあてはまりません。低価格ではありますが、競合他社との差別化ができるような機能性は無いからです。


ここで、商品ラインアップの一部を一覧にしてみます。

  • メスティン
  • コンパクトストーブ台
  • 着火バーナーターボフレキ
  • コンパクトハンマー
  • 3Wayコンパクトショベル
  • LEDランタンライト
  • コンパクトローチェア
  • アルミテーブル

※参考資料:BE-PALオンライン

これの元ネタを整理すると、
  • メスティン → トランギア、他
  • コンパクトストーブ台 → エスビット、他
  • 着火バーナーターボフレキ → 高森コーキ 着火バーナーターボ フレキシブル
  • コンパクトハンマー → 無数
  • 3Wayコンパクトショベル → 無数
  • LEDランタンライト → 無数
  • コンパクトローチェア → ヘリノックス、他
  • アルミテーブル → キャプテンスタッグ、他

はい。全部パクリです。


何の付加価値もありませんし、意匠・デザインによって差別化されている訳でもありません。どの製品も、同等品がAmazonなどに溢れかえっていますし、値段も拮抗しており、ワークマンのアドバンテージは全く無いと言えます。

チェアマニアの私は、ネタのためにコンパクトローチェアぐらいは買うかもしれませんが、他の製品は・・・。


私がもう一つ懸念するのが、これらのキャンプギアが完全に外部調達だと思われることです。ワークマンの商品が機能性を実現できているのは、自社で設計した製品を、中国を中心とする契約工場で、充分な品質管理の下で製造しているからです。

ところが、今回のキャンプギアは、どう考えても中華製のパクリ製品を仕入れてきて売るだけにしか見えません。自社設計で、機能性とコスパに優れた商品に仕上げているとは思えない物ばかりです。

こういう商品ラインアップは、一時的には話題になるでしょうが、中長期的に考えると、Amazonに溢れる他の競合製品との価格競争に晒されることになりますし、品質が悪ければワークマンブランドを毀損することにも繋がりかねないと思っています。


#ワークマン女子は成功するか

ワークマンのビジネスモデルは、これまでも述べてきた通り、高機能で低価格な製品にありますが、もう一つ重要なことがあります。

経費を最低限に抑え、低コストで販売する、つまり薄利多売です。


ワークマンの土屋哲雄専務が、目標原価率65%を公言していますが、これはアパレル業界としては破格の原価率です。しかも低価格ですから、利益を出すためには、販売にかかわる経費をできるだけ抑えなくてはなりません。

この一例を示すのが、ワークマンの店舗展開です。



Googleマップでワークマンを検索すると、山手線内には全く店舗が無いことが判ります。これが、ユニクロとワークマンが異なる最大のポイントです。ワークマンは基本的に薄利多売ですので、地価の低い店舗でないと利益を出すことができません。ですから、地価も含めて比較的低コストな、少し郊外の地域に店舗展開しているのです。これは、ワークマンがFC(フランチャイズ)メインということにも関係していますが、いずれにせよ薄利多売で利益を出すためには、店舗運営の低コスト化が必要ということになります。


このビジネスモデルに逆行するのが、#ワークマン女子です。#ワークマン女子は、2020年10月に横浜桜木町駅前のコレットマーレにオープンしたのを皮切りに、スカイツリー東京ソラマチ(2021年3月19日)、大阪なんばCITY南館(同4月2日)、川崎ルフロン(同4月16日)と、立て続けに新店舗をオープンする予定です。高い地価の都心部に店舗展開するためには、原価率を上げるか、客の高回転率に頼ることになります。ところが、FCとの兼ね合いもあるため、原価率を上げることはできませんので、必然的に回転率頼りになります。

回転率を上げるためには、新規顧客獲得と再帰率(再び来店する率)が課題となります。新規顧客獲得については、店舗名に#(ハッシュタグ)を付けていることからも判る通り、SNSを重視した戦略を立てています。問題は、再帰率です。ユニクロなどのアパレルメーカーは、毎年商品ラインアップを変えることで、顧客の店舗への再帰を促進し、販売に結び付けています。一方、ワークマンは、元々作業服メーカーですから、季節性を除けば、製品のライフサイクルが非常に長いのが特徴です。詳しくは後述しますが、ファッション性を高めれば高めるほど、消費者の飽き対策が必要となります。これは、そもそものビジネスモデルに逆行することになります。

また、ヘビーデューティーなワークマンの商品群は、一般ユーザーにとっては、ある意味でオーバースペックです。プロが毎日使えば、毎年買い替え需要が発生するのに、一般ユーザーではその何倍も持ちますから、結果として再帰率が落ちます。

私の勝手な想像ですが、今回のキャンプギア販売は、SNS対策よりも、顧客の再帰率を上げるための施策と考えられます。恐らく、ワークマンのキャンプギアはSNS等で話題になるでしょう。そうすると、多くの消費者が店舗に行くことが想像されます。ところが、元々買い付け商品のキャンプギアは、仕入れにも限界があります。そうなると、商品が品薄になり、どうしても欲しい人は、再三店舗に足を向けることになり、再帰率が高くなります。しかも、初めはメスティンだけが目当てであっても、チェアも、テーブルもと買い足していく可能性があります。そういった形で、再帰率を高め、顧客の関心を維持しようとしていると思われます。


東京ガールズコレクションに参加した#ワークマン女子

ワークマンのビジネスモデルにおいて、機能性と低価格以外に、もう一つ重要なことが、製品のライフサイクルです。元々、作業着などファッション性の無い製品は、一度設計してしまえば、長期に渡って同じ製品を販売し続けることができます。また、プロフェッショナル向けというのは、使い倒して定期的に買い替えてもらうことが前提になっているのです。ですから、一般的なアパレルのような、流行が終わると売れないという在庫リスクに晒されることが無く、たとえ大量の在庫を抱えても定期的な買い替え需要に基づいて売り切ることができます。ですから、土屋氏も言っている通り、ワークマンは値引きセールをする必要が無いのです。

ところが、#ワークマン女子の製品は、ファッション性を向上して一般人にまで対象を広げる戦略をとっています。その集大成とも言えるのが、2月28日に開催された東京ガールズコレクションへの参加です。4月から、ドラマゆるキャン△シーズン2が控えている福原遥(志摩リン役)をモデルに抜擢し、「ソロキャンガール」として演出していたのには、あざとさを感じましたが、それなりに盛り上がったようです。

ワークマンは、参加理由に「作業服=ダサい」というイメージを払拭したいということを挙げていますが、その点では一定の成功を収めた事でしょう。しかし、ファッション性を高めれば、常に新規性を求められるため、製品のライフサイクルが短くなります。また、販売数を増やすためには、多様性が求められるため、商品ラインアップを広げる必要があります。そこでワークマンが採っている手法が、ブロガーやユーチューバーとのコラボレーションです。


知的財産の搾取という無限ループを繰り返すビジネスモデル

ワークマンは、ワークマンプラスを展開するにあたって、当初からブロガーやユーチューバーとコラボレーションしていました。例えば、キャンプ向けの焚火パーカーなどのように、火に強く動きやすいといった機能性とファッション性について、キャンプブロガー等の意見を取り入れているのです。この辺りの、製品開発の経緯については、テレビ東京のカンブリア宮殿で放送されていたので、ご存じの方もいると思いますが、私は、これを知的財産の搾取と呼んでいます。

元々、作業服しか作ったことの無いワークマンですから、アウトドア向けのウェアやシューズを開発するにあたって、その道のヘビーユーザー、つまりブロガーやユーチューバーとコラボすることにしました。コラボと言えば聞こえは良いですが、ブロガーたちからアイデアという知的財産を貰って製品化しても、その対価は支払われません。せいぜい、試作品の提供や販売前の展示会に参加できる程度です。勿論、ブロガーやユーチューバーにとってはアクセス数を稼ぐための手段になりますから、コラボには積極的でしょう。しかし、それもワークマン側から言えば無料でかつ効果的に宣伝してくれているというコトになります。このシステムを、ワークマンはアンバサダーと呼んでいますが、私には知的財産の搾取にしか見えません。

一見、優秀に見えるこのシステムも、欠点があります。コラボしている相手は、プロのデザイナーではありませんから、限界があります。いつでも良いアイデアが得られるとは限りませんし、得意不得意もあります。つまり、何でもかんでも相談する訳にはいかず、成果も限定的になる訳です。それを打開するためには、搾取する相手を増やしていくしかありません。2018年にワークマンプラスが立ち上がった時、アンバサダーは5人程度だったと記憶していますが、2021年3月現在、26名ものアンバサダーが存在します。プロのスポーツ選手にメーカーが製品を提供することは多々ありますが、あれはお金を払って製品を使ってもらっているのですから、ワークマンとは全く異なります。

私は、職業柄多くのクリエイターと付き合いがありますが、こういうアイデア・知的財産の搾取を搾取とは言わずビジネスモデルにしていることには憤りを覚えます。こういった行為は、デザインなどを職業としているクリエイターにとっては迷惑な話です。



以上、色々と書いてきましたが、ワークマンが僅か3年で大きく変わったことは事実です。作業服というブルーオーシャンから、ファッションというレッドオーシャンに進出し、どこまで戦えるのかは興味深いところです。

今の所、#ワークマン女子は、SNSを主力に、新規顧客流入による高回転率によって薄利多売を維持しているように思われますが、このままユニクロのような都心部多店舗展開を行えば、早晩破綻するのは目に見えています。これに対して知的財産の搾取で戦うのも、限界があるでしょうし、在庫リスクを高めることにも繋がります。この課題をどう克服していくのか、今後も注視していきたいと思います。


最後に、ドラマゆるキャン△シーズン2について少々。

東京ガールズコレクションで、福原遥が「ソロキャンガール」を演じていたわけですが、どう考えても、志摩リン=ソロキャンガールというドラマのイメージを利用しているとしか思えません。#ワークマン女子を不動のものとしたいワークマン側と、キャンプブームに乗っかりたいテレ東。ワールドビジネスサテライトを見ていても、まるでワークマンの宣伝か?と思うような内容が目につきます。

シーズン2で、リンちゃんがワークマンの製品を身に着けているかどうかで、テレ東との蜜月関係を測ることが出来ると思いますが、どうでしょうねー(苦笑)。



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