【蝶VS蜘蛛】グリップティリアンVSエンデューラ

2019年10月2日

ナイフ沼

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ベンチメイドのグリップティリアンとスパイダルコのエンデューラ4は、フォールディングナイフ(フォルダーとも言う)の代表格と言えるナイフです。
大きさも似通っており、どちらも高性能で使い勝手の良いナイフです。

でも、そうなると、どちらが優れているかとても気になりますよね?!
そんな方のために(?)、私の独断で対決させてみることにしました!!


ベンチメイドとスパイダルコについて

以前も少し触れましたが、ベンチメイドは、タクティカルナイフを中心に様々なナイフを制作しており、中でもブラッククラスと言われるモデルは軍隊や警察に多くのモデルが採用されており、プロからも厚い信頼を得ています。ブラッククラスのフォールディングナイフには、PRESIDIO II(プレシディオ2)というアルミハンドルモデルや、CONTEGO(コンテゴ)という刃厚4mmオーバーのマッチョなナイフがありますが、正直タクティカル要素が強すぎて、キャンプ場で使うにはチョット気が引けるモデルですので、このブログでは対象外としています。そういう意味では、グリップティリアンは、ブルークラスと言われる標準モデルで、アウトドアでの実用面では最も適したモデルと言えます。

PRESIDIO II(出典:ベンチメイドナイフ・ジャパン) 
CONTEGO II(出典:ベンチメイドナイフ・ジャパン




一方スパイダルコは、ラウンドホール(サムホール)で有名なこともあり、その多くのモデルがフォールディングナイフです。フォールディングナイフと言えば、バックのフォールディングハンター110が有名ですが、実用性で言えば、スパイダルコが世界の最先端を行っています。

フォールディングハンター110(出典:BUCK KNIVES

スパイダルコ創業者のサル・グレッサーは、とにかく実用性を徹底的に考え抜く人で、ナイフユーザーの意見こそがナイフ作りに最も重要と、米国中の見本市で聞いてまわるような人物です。そんな彼が生み出した多くのナイフの中でも、エンデューラは最もポピュラーなナイフと言え、3度のモデルチェンジの末に行きついた現行モデルは、世界で最も実用的なフォールディングナイフと言っても過言ではありません。

グリップティリアンとエンデューラ4の鋼材

左:エンデューラ4 右:グリップティリアン


鋼材に関してですが、グリップティリアンは米国クルーシブ社のCPM-S30V、エンデューラ4は日立金属のZDP189を使用したモデルと、いずれも粉末冶金鋼を使用しています。粉末冶金鋼は、原料の金属を微細な粉末状にした物を、金型に入れて圧縮成形し、高温で焼結して作られた鋼材です。通常の溶鉱炉で素材を溶かして混ぜる方法より、均一で微細なミクロ組織にすることができるため、なめらかで切れ味の良い刃物を作ることができます。
残念なことに、ZDP189は生産が終了しているため、エンデューラのZDP189モデルは現在の在庫が無くなり次第販売終了となります。

さて、蝶のマークのベンチメイド、蜘蛛のマークのスパイダルコ、いづれも実用性の高いナイフ作りには定評のあるメーカーですので、この対決は、実用ナイフの頂上決戦と言っても過言ではありません!

それでは、蝶VS蜘蛛の戦い、レディー ゴーッ!!

Round 1 サイズ感

まずは、サイズを比較してみます。



【グリップティリアン】
刃長:85mm
刃厚:3mm
全長(オープン):206mm
全長(クローズ):120mm
重量:110g

【エンデューラ4】
刃長:88mm
刃厚:3mm
全長(オープン):221mm
全長(クローズ):126mm
重量:94g

※値は全て私の持っている物をノギス等で測った実測値

刃長は3mmエンデューラの方が長いですが、ほぼ同じと言えます。エンデューラは、ブレードの付け根部分に刃のついていないブレードタングが約9mmあるため、オープン時はグリップティリアンより長く見えます。
刃長85mm前後というのは、日用ユースからちょっとした調理まで、オールマイティに使えるサイズですので、とても重要なファクターです。両者ともいいサイズ感で作ってきていると言えます。
クローズ時のサイズが僅かにグリップティリアンが小さいですが、感覚的にはほぼ同等ですので、サイズ感としては互角と言えます。

Round 2 握りやすさ

蝶も蜘蛛も、ハンドル素材はFRN(ガラス強化繊維プラスチック)です。FRNは、軽くて水に強く、耐衝撃性も高い優秀な素材ですが、滑りやすいため表面加工がポイントになります。



蝶は菱形の突起があるチェッカー模様、蜘蛛はハンドル中央から広がる蜘蛛の巣状のデザインです。蝶のチェッカーは、悪くはないのですがグリップ力が高いとまでは言えません。


一方の蜘蛛のハンドルは、うろこ状の突起が中心に向かって並んでいるため、全ての方向にトラクションが効くようになっています。そのため、握った時のトラクションが素晴らしく、どんな持ち方をしても確実にグリップすることができます。
また、グリップ形状が、蝶は普通の楕円形ですが、蜘蛛は指の形に合わせたくぼみがあるので握りやすいです。蝶のグリップは膨らみがあるので、力はかかりやすいようになっていますが、グリップ形状全体で考えると、やはり蜘蛛に軍配が上がります。

ジンピング(滑り止め)ですが、蝶は、ブレードつけ根周辺をメインに色んなところに入れられています。


特に、スパイン側のジンピングは、少し大きめになっておりトラクションがかかるため、木を削るなどの力を入れたい場面では、親指を置いて使うと力が入りやすいです。


ちなみに、スチールプレート上のジンピングはそれなりにトラクションがありますが、FRNハンドル上のジンピングは、お世辞にも役に立っているとはいえません。はっきり言って殆ど飾りレベルです。


蜘蛛のジンピングですが、こちらもブレードつけ根のハンドル上のジンピングはイマイチです。ただ、スパインのラウンドホール側のジンピングは、溝も深く掘られているので、良好なトラクションを得ることができ、親指をあてて力を入れる場面では威力を発揮してくれます。

ジンピング対決は、五分五分ですが、スパイン上のジンピングは、スパイダルコの方が上です。スパイダルコはラウンドホールがあるので、その分スパインに出っ張りがあり、より力がかかりやすい形状になっていることが大きいです。まあ、ブレードデザインも含めて全体で考えれば、やはりスパイダルコの勝ちと言えるでしょう。


Round 3 ブレードのアクション

まず、ブレードのオープン方法ですが、蝶はサムスタッド、蜘蛛はラウンドホールです。これは、好みがあるので何とも言えなので点数が付けにくいですが、両者ともに使いやすく簡単に片手で操作できます。



閉じ方については、axisロックとロックバックの対決という感はありますが、これも好みがあるため難しいです。蜘蛛のロックバックは、ロックリリースの押す位置がグリップの中央付近にあるため、押しやすいです。フォールディングハンター110のように、グリップエンド付近にあると両手でないと閉じれないので、この辺は絶妙の位置に調整されています。
蝶のaxisロックは、独特のブレードアクションのスムースさにもつながっており、がたつきも無くとても官能的ともいえる出来に仕上がっています。蜘蛛のロックバックも、「カチッ」というロック音が、精密に組み上げられた製品であることを物語っており、甲乙つけがたいです。

Round 4 切れ味

さて、遂にナイフとして最も重要な切れ味の対決になりました。
まず、切れ味を比べる前に、エッジアングル(エッジ角)に注目してみることにします。


【グリップティリアン】
エッジ角:約9度
セカンダリーエッジ角:約34度

【エンデューラ4】
エッジ角:約6度
セカンダリーエッジ角:約40度

角度は、カタログにエッジ角が記載されていないため、デジタルプロトラクターを用いて私が実測した値です。まず、それぞれのエッジ角ですが、グリップティリアンが約9度でエンデューラが約6度と、いずれもかなり急なエッジが付いています。フォールディングナイフですので、エッジ角は急角度になっています。問題はセカンダリーエッジで、実測ですので若干誤差はあると思いますが、グリップティリアンの方が若干急角度になっているため、切れ味の面では有利と予想されます。そこで、2本のナイフの切れ味をより厳密に比較するために、研ぎ直してみることにしました。箱出しでの切れ味は、あまり覚えていないのと、やるならエッジアングルを共通にした方がフェアということもあって、どちらもセカンダリーエッジを30度(片側15度)に研ぎ直しました。後述しますが、これがタイヘンなことに・・・

さて、研ぎあがったところで、切れ味を確かめるのに、先ずはコピー用紙を切ってみた所、両者に違いは感じませんでした。どちらも良く切れます。まあ、この辺は予想通りです。


次に、段ボールを切っていきます。どちらも20回ぐらい切ってみた所、僅かに蜘蛛の方が切れ味が良いです。これは、エッジ角が蜘蛛が約6度と蝶と比べて3度鋭角なことも影響していると思います。段ボールを切る時に、どちらの方が抵抗があるかを比べることになるので、少しでもエッジ角が鋭角な方が食い込みには有利になります。ただ、それを差し引いても、やはり蜘蛛の方が切れ味が良く感じます。鋼材の硬度を比べると、蝶のCPM-S30VがHRC58~60、蜘蛛のZDP189がHRC66~68(G・サカイのWEBサイトでは67と記載されている)と、6~8ほどの差がありますので、やはりこの差が出ているのではと思います。


最期に、フェザースティック作りです。参考までに、ファルクニーベンのF1とも比較してみます。薪は水分量や密度によって削りやすさが微妙に変わるので、より厳密にテストできるように、同一の薪をバトニングで小割にしたものを使用しました。
感覚的には、蝶も蜘蛛も同じです。F1は、コンベックスグラインドで、私が普段からフェザースティック作りに使っているという慣れもあって一番きれいに仕上がっていますが、蝶や蜘蛛もF1に劣っているというほどではありません。フェザースティック作りにおいて、コンベックスかフラットかというブレード形状の違いは、実際には慣れに左右されるので、私も慣れれば蝶や蜘蛛でもF1と同じようにフェザーを仕上げることができると思われます。

以上、切れ味対決は、僅かに蜘蛛の勝ちといったところでしょうか。

Round 5 耐久性

切れ味対決のためにセカンダリーエッジを30度に変更した話は既に書きましたが、これがタイヘンでした。どちらも耐摩耗性に優れた粉末冶金鋼ですので、とにかく研ぎにくいというか、いくら研いでも研げないという地獄のような研ぎでした。私の持っている砥石は、15年ぐらい使っている合成砥石で、荒砥と仕上げ砥が張り付けられた格好をしています。番手が書いていないので不明ですが、たぶん荒砥が800ぐらい、仕上げ砥が1500~2000ぐらいと思われます。セカンダリーエッジの角度を変えていくので、当然まず荒砥で研ぐのですが、10回や20回研いだところで粉も出ないぐらい研げないです。プロトラクターで角度を確認しながら研いだというのもありますが、2本仕上げるのに1時間以上かかりました。研ぎ終わった後、疲れすぎてナイフを握る手が震えていたぐらいです。どちらのナイフも耐摩耗性については、折り紙付きといったところでしょうか。

さて、研ぎあがったナイフで上記の切れ味テストをしたわけですが、それぐらいで切れ味が落ちることもなく、2本とも全く問題ありませんでした。切れ味の所では書きませんでしたが、広葉樹を削るテストもしてみたのですが、どちらもそれなりに削れるので切れ味の差は感じませんでしたし、20回ほど削ったぐらいで切れ味が落ちることもありません。厳密にやるなら、何百回と削って差を確認すべきですが、既に研ぐことに体力を使いすぎたので、どちらも十分な耐久性があるということでお許しください。

さて、ブレードの耐久性は互角として、それ以外の耐久性ですが、これは蝶に軍配が上がります。フォールディングナイフはブレードタングとそれを留めているピン周りがボトルネックになるのですが、蝶はがっつりステンレス製のライナーで補強してあります。また、そのライナーがグリップ後半まで入っているので、グリップ全体の剛性を上げることにも寄与しており、横方向やねじれに対する強度が上がっています。蜘蛛もライナーが入っていますが、補強度合いは蝶の方が上です。但し、蜘蛛のライナーは、肉抜きされており、軽量化が図られています。これは、蝶と蜘蛛の設計思想に違いがあるためと推察されます。ベンチメイドは、タクティカルナイフ譲りの耐久性を重視しており、グリップティリアンも軽さより耐久性に振っています。一方のスパイダルコは、耐久性よりも軽さを追求しており、これは旧モデルではライナーレスだったことからも判ります。


ブレード形状も、セイバーグラインドですので、ブレードの2/3あたりまでは刃厚が3mmを保っており、ブレード全体の強度を上げています。
蜘蛛は、フルフラットグラインドですので、ポイントに向かってブレードが細くなっています。この形状は、物を突き刺す時には食い込みが良いのですが、ブレード全体の強度としてはポイントに近づくほど強度が下がるので耐久性の面では不利です。
蝶と蜘蛛では、設計思想の違いもあり、耐久性の面では蝶が大きくリードしています。但し、そのトレードオフとして、重量が増えています(たった16gですが)。

最終Round 総評

蝶VS蜘蛛と銘打って、様々な点を比較してみましたが、そろそろ結論を出したいと思います。まずは、これまでを振り返ってまとめてみます。

サイズ感:引き分け
握りやすさ:蜘蛛の勝ち
ブレードのアクション:引き分け
切れ味:僅差で蜘蛛の勝ち
耐久性:蝶の勝ち

サイズ感としては、どちらも85mm前後のブレード長のナイフですので、ほぼ同じです。蜘蛛のハンドルは平べったくて厚みが11mmしかないため、ポケットに挿していてもゴロゴロしませんが、蝶は厚みがあるため多少のゴロつき感があります。
一番の差が、握りやすさで、これはハンドルが薄くて不利なはずの蜘蛛の方が握りやすく滑りにくいということで、蜘蛛の圧勝といえます。
ブレードのアクションは、構造は異なりますが、いづれも高い精度を誇っているのでとても快適です。axisロックのスムースなブレードアクションに一票を投じたいところですが、これは好みの問題でもあるので、私としては引き分けとしています。
切れ味は、一応蜘蛛の勝ちにしていますが、僅かの差ですので、普通に使っていれば気が付かないレベルです。むしろ、蝶のCPM-S30Vと蜘蛛のZDP189では、硬度(HRC)で6~8ほどの差が付いているはずですが、実際にはそれほどの差は感じません。これだけ硬度が違うと、かなりの差を感じても良いはずなのですが、それが感じられないということは、粉末冶金鋼ゆえの特殊な金属組織が影響しているのかもしれません(それか私の研ぎの腕がへっぽこで限界を引き出せていないか・・・)。いずれにせよ、2本とも鋼材に粉末冶金鋼が使われており、高い硬度があるので、良く切れるナイフです。
耐久性については、ライナーでしっかり補強されている蝶に軍配が上がります。蝶は、下手なシースナイフより頑丈にできていると思われ、ブレード形状も含めハードユースに向いていると言えます。一方、蜘蛛は軽量化を念頭に置いているので、ライナーが肉抜きされているなど、努力の跡が伺えます。ただ、その差が16gというのを、凄いと思うか、そんなもんかと思うかで意見が分かれそうです。ポケットに入れることを考えると軽い方がいいのですが、入れてる感じでは重さの差は感じません。
以上、とても評価が難しい両者ですが、1点だけ蜘蛛が優れている点があります。既に、デリカ4の記事で書いていますのでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ブレードタングが約9mmと長く取られており、ブレードを閉じる時に指を切らないようにできています。


安全性の面では、この点は見逃すことはできません。
私は、この点を評価して、エンデューラ4の勝ちとしたいと思います。ブレード長88mmとブレードタングの9mmを足すと、全長97mmとなり、フォールディングナイフの大きさとしては限界近いですが、そのぎりぎりの線をうまく攻めていると思います。フォールディングナイフは、ブレードをハンドルの中に収納するため、ブレードが長くなればその分ハンドルも長くなります。長いハンドルは取り回しづらくなりますので、ブレードの全長とのせめぎあいとなる訳です。
エンデューラ4は、オールラウンドに使えるフォールディングナイフとして、とても高次元でバランスのとれたナイフと言えます。グリップティリアンも非常に良く出来ていますが、安全性の面も含めて徹底的に実用性を追求したエンデューラ4と比較すると、やはり届かない部分があります。

さて、下の写真をご覧ください。エンデューラ4、グリップティリアン、ブラボーEDCの3本を並べた写真です。


刃長88mm、刃厚3.5mm、全長:182mmとシースナイフとしては小ぶりなナイフです。小さくてもブラボーですので、フルタングで高い耐久性を誇っています。刃長が88mmなので、今回対決した2本とモロ被りです。そして、特に蜘蛛はフォールディングナイフとしては長めの刃長のためにハンドルが長くなっていることが良く分かります。ブラボーEDCのハンドルは小さめに作られているため、余計にフォールディングナイフのハンドルが大きく見えます。
フォールディングナイフは、折り畳んでコンパクトにすることで、簡単にポケットに入れることができて、片手で操作できることが最大の利点です。耐久性・堅牢性が求められる場面であれば、シースナイフを使うべきで、そういった観点から言えば冒頭で紹介した、ベンチメイドのプレシディオ2やコンデゴなどはオーバースペックと言えます。軍隊用途であれば、メインのタクティカルナイフが使えなくなった場合のサブとしてのフォールディングと考えれば、コンテゴあたりの堅牢性は重要なスペックになるでしょうが、日常ユースで段ボールや紐などを切ることを考えると、グリップティリアンでもオーバースペックと言えるでしょう。
結局、オールラウンドで使うナイフと言っても、1本で全て賄うのは限界があるので、耐久性・堅牢性が求められる場面はシース、それ以外の用途はフォールディングと分けるのが賢明です。そうすると、刃長10~15cmのシースと、刃長5~8cmのフォールディングの組み合わせが最強と言えます。そういう観点から言うと、エンデューラ4は少し大きすぎるので、デリカ4とシースの組み合わせの方が良いです。

って、結局デリカ4かい!?









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