リゲルPro.ストーブプラスを体験して感じた事

2024年3月8日

topics コラム テント

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先日、スノーピークリゲルPro.ストーブプラスを体験する機会がありました。

リゲルPro.ストーブプラスは、スノーピーク初の薪ストーブ対応テントです。最大の特徴は、テントと専用の薪ストーブがセットになっている事です。


薪ストーブをインストール可能なテントは、日本ではおそらく2017年に発売されたオガワのピルツ15T/Cが最初です。ワンポールテントの天頂部分に煙突ポートが設けられており、幕体には火の粉に強いテクニカルコットン(ポリエステルとコットンの混紡)を採用しているのが特徴です。

出典:オガワ

更に海外に目を向ければ、ローベンスのクロンダイクやテンティピのジルコンなど、様々なテントが販売されています。

筆者愛用のクロンダイクグランデ。

では、満を持して発売されたリゲルPro.ストーブプラスについて、リポートしていきたいと思います。

スノーピークの実力や如何に!?


リゲルPro.ストーブプラスについて

リゲルPro.ストーブプラス(以下、リゲルPro.)は、2024年の新作テントです。スノーピーク最大クラスのシェルターで、リビングシェルをベースに、薪ストーブに特化した様々な工夫が施されています。テントとして見た場合の最大の特徴は、フライシートが完全2重構造になっていることです。外側の生地は、火の粉に強いTC(テクニカルコットン)で、シェルター本体となる内側は、高強度のリップストップ生地(ポリエステル製)が採用されています。これによって、外側は薪ストーブの火の粉から本体を守りつつ、2重構造にすることで保温性も高められています。


一方、このシェルターに合わせて作られたのが、専用の薪ストーブ「リゲルストーブ」です。

4面ガラス構造とすることで、テント内で焚火をしているような雰囲気が演出されており、どちら側からでも薪が投入できるように、両サイドに扉が設けられています。

扉を開けると、上から金属プレートのカーテンが下りてきて、煙や火の粉が幕内に入るのを防止する構造になっています。



ストーブ内には、2次燃焼を促すパネルが設けられており、効率よく薪を燃やすことができます。

薪ストーブ本体下部には、大型の灰受けがあり、落ちた灰も適宜掻き出せるので、数日間の連続運転にも耐えるようになっています。実は、この点も重要で、キャンプ用薪ストーブには、運転中に灰を掻き出すことができないタイプも多く、灰が溜まってしまうと、薪が十分に燃やせなくなったり、通気口がふさがれてしまったりする場合があります。こういった点についても、十分考慮されているのは流石です。

薪ストーブの周囲は、これも専用品の8角形のテーブルが付属、誤ってストーブに触れることが無いよう、十分な距離がとられています。また、薪ストーブ兼テーブルの脚には、アジャスターが設けられており、地面の微妙な凹凸にも対応できるようになっています。


煙突は、シェルターにベルトで固定する構造。4本のベルトで煙突を吊り下げ、天井の耐熱シリコンリング部分と合わせて5点で固定されています。



薪ストーブを幕内で使用する場合の最大の課題は、安全性です。特に、薪ストーブが不完全燃焼を起こすことで発生する一酸化炭素は、深刻な中毒を引き起こし、時には死につながることもあります。一般的には、薪ストーブで発生した一酸化炭素は、煙突から排気されるため、室内に漏れることは先ずありません。しかし、使い方や燃焼状況によっては、強風時に煙突から空気が入り、それによって煙が逆流してくる場合があります。そういった万が一の場合でも、テント内の空気が排出されるように換気性能も充分に考慮されています。更には、万が一のための一酸化炭素メーターも付属しており、安全性への拘りが伺えます。

薪ストーブが使えるテントは、スノーピークにとっても悲願でした。ただ、十分な安全性が担保できないとこれまで断念してきました。しかし、2022年に安全で快適な冬のキャンプのためにと、開発に取り組んだという背景があります。そのため、安全性には徹底的に拘っており、冬のニュージーランドで、積雪下の氷点下でもストーブが適切に使えるか、密室状態で不完全燃焼を起こしても事故に繋がらないかなど、あらゆるテストを敢行。その結果、一酸化炭素中毒も含めて、十分な安全性が確認されています。


スペック・セット内容

リゲルPro.は、全長7m、全幅4.5m、全高(室内)2.25mと堂々とした体躯のシェルターです。

出典:スノーピーク

セット内容としては、シェルター本体+TCフルフライシートに加え、インナーテント(グランドシート、インナーマット付)、薪ストーブ、一酸化炭素チェッカーなど。

他には、サイドウォールを跳ね上げるアップライトポール2本などもセットになっていますので、買い足す必要がありません。但し、唯一ペグだけは付属していませんので、別途購入する必要があります。必要となる本数は、鍛造ペグ相当で、30cm以上×14、40cm×16の合計30本以上が必要となります。


重量は、シェルター本体とフレーム一式が30kg、TCフルフライシートが13.4kgですから、シェルターだけで40kgを超えます。

ストーブ本体も、本体42kg、ストーブベースフレーム20kg、テーブルトップ19kg、煙突セット10.5kgと、合計で100kg近くになり、全て合計すると140.3kg!!

スペックだけ見てしまうと、流石にこの重量のテントを持ち運ぶイメージが沸きません(苦笑)。


体験して感じた事

真っ先に感じたことは、重厚感です。多少の風ではビクともしないのは当然として、幕内にいると外の音が殆ど聴こえず、薪ストーブが燃えるパチパチという音が静かに響きます。

それもそのはず、シェルター一式だけで43.4kgもあるのですから、堅牢性と遮音・遮熱性能は他のテントと一線を画します。これらから来る重厚感は、海外製品も含めて他に類を見ないので、リゲルPro.独特の物と言えるでしょう。


薪ストーブに目を移すと、こちらも独自の機能が目立ちます。キャンプ用薪ストーブは、ガレージブランドも含めて多くの製品がリリースされており、4面ガラス製というのも珍しくはありません。しかし、テーブル一体型で、ここまで安全性と機能性に拘った製品は他に無いでしょう。ステンレス製のため、耐久性にも富みますので、一生モノとまでは言わないでも、長期間の使用に耐えるでしょう。

薪ストーブ特有の遠赤外線による暖かさは、厳冬期にはありがたいですし、2重構造による断熱性能は、特に就寝時に威力を発揮します。2重構造による欠点は、テント内が昼間でも結構暗いことです。天井高があるので圧迫感を感じるという程ではありませんが、暗さから来る閉塞感は若干あります。

構造上、窓も少ないので、解放感には欠けますが、サイドパネルを跳ね上げればそれなりの明るさと解放感が得られます。また、外側のTCフルフライシート無しであれば解放感もあるため、夏場であれば問題にならないでしょう。


リゲルPro.ストーブプラスのレゾンテートル

レゾンテートルとはフランス語の哲学用語で「存在意義」を意味します。では、リゲルPro.ストーブプラスのレゾンテートルとは何なのでしょうか。

スノーピークは、満を持して出したこのテントを「真冬でも❝焚火❞を囲める超快適空間。」と称しています。私は、毎年、テント内で薪ストーブを楽しんでいます。メインのテントは、クロンダイクグランデで、こちらは煙突ポートがあり、勿論、自分なりの工夫は施していますが、室内でも安全に薪ストーブを使用することが可能です。

真冬の北海道旭川でのキャンプ。この時は最低気温マイナス20.2℃を記録した。


他には、テンマクデザインのサーカスコットンVer.を使用しており、ソロでの雪中キャンプを楽しんでいます。


ティピ型テント内で薪ストーブを使う場合、いかにして煙突を中央ポールに固定するかが、安全上のキモになる。


そんな私の結論としては、リゲルPro.ストーブプラスを使ったらキャンプじゃないということです。実は、このテントを体験した時、設営の一部始終を観ていたのですが、スノーピークのスタッフ2人がかりで2時間近くかかっていました。そりゃそうです。30kgにもなる本体を組み立てるだけでも一苦労ですし、その上に13kgオーバーのフライシートをかぶせるのですから、かなりの重労働です。正直、アラフィフの私と妻では、設営できる気がしません。

更には、総重量91.5kgの薪ストーブなど、車に積載するのもままならないです。本体だけで40kgオーバーと、大人2人でも運ぶのに苦労する重さです。私が使っているテンマクデザインの「iron-stoveちび」ですら約20kgと重く、これが運用上の限界と思っているので、とてもではありませんが、倍もあるこのストーブは論外です。更に言うと、組み立ても大変で、スタッフの方に聞いたところ、薪ストーブと煙突の接合がきっちり高さや角度を合わさないと嵌らず、苦労するとのことでした。

最早、このテントを使う場面は、キャンプではなくグランピングです。


もう1点は、価格です。税込148万5000円という、薪ストーブがセットになっているとは言え、とてもテントとは思えない値段です。はっきり言えば高すぎます。総重量140.3kgですから、1kgあたり10,584円と、A5ランクの和牛並みの値段です(苦笑)。

冗談はさておき、通常のテントの10倍以上の価格ですから、その価値があるかがポイントになります。車で例えるなら、普通のテントがトヨタのカローラだとすると、リゲルPro.はフェラーリやランボルギーニに当たる金額です。リゲルPro.が、ステータスも含めてその価値があるのであれば値段に見合うかもしれませんが、そうだと断言できる材料は私は見出せませんでした。

それに、ペグが付属していないというのも、この価格から考えるとどうかと思います。一般的に考えれば、これだけの価格の製品を買う人であれば、既に多量のペグを所持しているでしょうから、ペグが別売と言うのは論理的には間違いではありません。しかし、ブランドステートメントというメッセージ性も考慮すれば、せめて専用カラーのソリッドステークを付属するぐらいはしても良いはずです。この辺も含めて、売り方に疑問がありますし、マーケティング的にも悪戯に価格に関する話題だけが先行してしまい、失敗と言わざるを得ません。


もっと言えば、リゲルPro.の価値は何なのかということです。

確かに、重厚感に関しては他に類を見ないテントと言えます。しかし、テントの良さは重厚感だけで決まる物ではありません。設営の容易さ、耐久性、メンテナンス性など様々な要素が絡んできます。

実は、私が一番気に入らないのが、この重厚感なのです。確かに2重構造のシェルターは堅牢で静かですが、裏を返せば自然から隔絶されてしまっているのです。キャンプはアウトドアを楽しむ遊びですから、そのアウトドアを感じられなくなってしまうのであれば、本末転倒であり、そのレベルであればグランピングで十分です。

安全性への拘りも確かに随所に表れていますが、実際には過剰ともいえるスペックになっています。薪ストーブ内の金属カーテンなども確かに安全性を考慮しているかもしれませんが、実際の効果と必要性には疑問があります。テーブルや脚も含めた構造も複雑で、ここまでの作り込みが果たして必要か、その裏返しとしての重量に妥当性があるかと問われると、甚だ疑問です。


では、リゲルPro.のレゾンテートル(存在意義)は何なのでしょうか。スノーピークのフラッグシップとしてのテントだと言えばそれまでですが、価格だけでなく重量・サイズも含めて使う人を選びますから、ブランドステートメントとしても微妙です。もっと言えば、このテントを使っている人のイメージができないのです。マーケティングで重視される項目に、ペルソナというものがあります。その商品やサービスは、どんな人が使うかを想定して、人物像を創り上げるのですが、そのようなペルソナが、このテントからはイメージできないのです。

このテントを買う人がいないという気はありませんし、買った人にあれこれ言う気は毛頭ありませんが、ペルソナが見えない以上、私には、自分たちの技術力を誇示するために造られた商品だと感じます。言い方を変えれば、押しつけがましい商品であり、買う側から見た意義が見えないのです。

この手の失敗は、多くの企業が経験しており、SONYも5000億近くの赤字に陥り、存続が危ぶまれた時期がありました。そのきっかけとなったのが、QUALIA(クオリア)で、以前リゲルPro.が発表された時の記事に書いた通りです。今回の体験は、図らずも、その時感じた直感を裏打ちすることになりました。


参考記事:スノーピークの148万円のテントが失敗と言えるこれだけの理由


リゲルPro.ストーブプラスは、シェルター本体のみのリゲルPro.も販売されていますが、こちらも60万5000円と、他のテント・シェルターに比べて突出して高い価格設定が為されています。ストーブプラスと合わせて、何れもその価格に見合った価値は何か、レゾンテートルが見いだせない状態と言わざるを得ません。

これがせめて、スノーピークのグランピング施設専用テントとして開発されたのであれば納得できます。スノーピーク直営のヘッドクォーターズなどで、このテントが10張りぐら並んでいれば壮観でしょうし、1泊ぐらいなら泊まってみようという気にもなります。その上で、その体験を手に入れたいという一部の数寄者に、限定で販売するというのであれば、意味も価値も分かるのですが、これがスノーピークの薪ストーブに対する答えですと言われても、違和感しか覚えません。


私は、これまでスノーピークの製品づくりや企業理念に一定の理解を示してきたつもりですし、決してアンチではありませんが、今回のリゲルpro.を見ると、その将来を危惧してしまいます。奇しくも、今年の年間決算は減収減益となり、純利益は99.9%減の100万円、その結果か自社株買取による上場廃止へ動いていることが報道されています。非上場にするということは、株主からの介入を防止する事に繋がる一方、経営が不透明になるという側面があります。スノーピークは、創業家である山井一族によるファミリービジネスという面が強いため、それが悪い方向へ進まなければ良いと思いつつ、今後の動静を注視していきたいと思います。



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