キャンプがオワコンは本当?データから読み解く

2024年2月29日

コラム

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最近、スノーピークの2023年12月期の純利益が、前の期比99.9%減の100万円だったこと、それに続く自社株買いによる上場廃止が話題になっています。これをもって、キャンプブームの終焉、キャンプはオワコン※といった話がネット上で話題になっています。

キャンプオワコン説は、2023年4月頃から見られるようになり、ブックオフに大量のアウトドア用品が売られているなど、様々な現象が取りざたされていました。一方で、「オワコンと言われてるのにふもとっぱら予約取れない」とか「キャンプ場が満員なのに、キャンプブーム本当に終焉したの?」など、様々な言説が飛び交っています。

そこで、今回は、本当にキャンプはオワコンなのか、様々なデータから分析してみました。


※オワコン:一時は流行したが、旬が過ぎて顧客が離れてしまったコンテンツやサービスを意味するネットスラング。


キャンプ人口が減っているという事実

最初に、キャンプ人口(1年間に1泊以上オートキャンプをした人の数)を見てみましょう。

このグラフは、2023年オートキャンプ白書(一般社団法人 日本オートキャンプ協会 刊)のデータを基に作成したものです。

キャンプ人口は、1996年の1580万人をピークに減少に転じ、2005年には740万人と、ピーク時の半分以下まで落ち込みました。その後2012年頃までは720~740万人前後で推移し、2013年から漸増に転じています。コロナ禍直前の2019年には860万人にまで増加し、コロナ禍に入ってからも、3密を避けられるということを理由にキャンプが大流行、ニュースや情報番組で取り上げられたことを記憶している方も多いでしょう。

ところが、キャンプ人口を見てみると、コロナ禍突入初年の2020年は、前年比30%減の610万人まで落としています。2021年は750万人まで回復しましたが、コロナが終息に向かい出した2022年は650万人と再び下落しています。最新の統計データが出ていないので2023年がどうだったかは分かりませんが、おそらく前年と同程度か下がっていると思われます。

キャンプブームとマスコミなどで騒がれだしたのが2020年後半から2021年にかけてですが、実際にはその頃から既にキャンプ人口が減少に転じていたことになります。


市場規模とスノーピークの経営状況

キャンプ市場に関する正確なオープンデータが乏しいので、ここでは矢野経済研究所のレポートを基に分析してみます。

国内アウトドア用品・施設・レンタル市場規模推移・予測

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3385

これによると、キャンプ市場は、2020年の3983億円から、4440億円、4536億円と右肩上がりに成長しているようです。コロナ前の2019年の推計が無いので何とも言えませんが、市場としては右肩上がりに見えます。


問題は、スノーピークの売上高の推移です。

グラフは、スノーピークの決算短信より売上高を抜き出した物です。コロナ禍に突入した2020年でも売り上げがアップしており、2021年には前年度比53.4%増の257.1億円に達しています。2022年も、前年度比では勢いが落ちていますが307.7億円を達成。ところが、2023年は売上高257.2億円と大きく落ち込み、純利益99.9%減の100万円となってしまいました。

では、他のアウトドア用品メーカーはどうかと言うと、キャンパルジャパンやモンベルなど多くの企業は、株式を上場していないため、決算が公開されておらず実態が分かりません。ただ、悪い噂は聞かないので、堅調に推移しているのだと思います。

スノーピークは、この10年で赤字になったのは2017年の1回だけですので、決して経営状態の悪い企業ではありませんでした。ところが、今回は上場廃止を決めてしまったため、様々な憶測が飛んでしまったようです。2023年の売上高は2021年相当で、その時は純利益27億円を叩き出していましたから、この2年の間で急激にPLが悪化したのでしょう。

決算説明資料によると、アメドやエントリーパックTTなどのエントリー商品が売れなかったことが原因としていますが、それ以外に、販管費が21年の103億円から142億円と、2年で3割近く上昇していることも関係しています。単純に言えば、贅肉が着いてしまったということになります(苦笑)。

いずれにせよ、今回の出来事は、スノーピーク単独の経営問題が背景にあると考えられ、これをもってキャンプオワコン説を唱えるには不十分でしょう。


メディアから見えてくるキャンプ事情

ここでは、キャンプに関連するメディアから、市場状況を考えてみたいと思います。雑誌の売上や、WEB上でのアクセス数などは、消費者の行動の表れとして、市場の重要な指標となります。

最初に挙げるのは、アウトドア雑誌です。実は、雑誌は右肩下がりの媒体で、将にオワコンと言われている典型のため、それを差し引いて考える必要があります。

出典:出版科学研究所


指標として取り上げるアウトドア雑誌は、今年で創刊43年を迎える老舗中の老舗「BE-PAL」と、2010年に創刊した「GO OUT」です。

印刷証明付部数とキャンプ人口
(一般社団法人 日本雑誌協会、一般社団法人 日本オートキャンプ協会の発表資料より筆者作成)

このグラフは、毎年の月平均の発行部数(折れ線グラフ)と、キャンプ人口(棒グラフ)を表しています。BE-PALは、2009年から2013年までは右肩下がりですから、2005年あたりから水平に遷移していたキャンプ人口に比べると大きく落としており、雑誌業界の衰退の影響が見て取れます。

ただ、2013年以降は比較的平坦で、第2次キャンプブームと言われた2021年あたりは比較的好調でした。しかし、2022~23年はかなり落ち込んでおり、これだけ見るとキャンプブーム終焉と言われてもおかしくないように見えます。

一方、GO OUTの方ですが、こちらはキャンプ人口との相関がある程度見えます。ただ、20~21年あたりはコロナ禍の影響をあまり受けておらず、2022~23年に若干の下落が見られます。こちらも、BE-PAL同様、キャンプ人口減少の影響を受けていることが想定されます。


さて、WEBメディアはどうでしょうか。

下記の図は、Googleの検索キーワードについてGoogleトレンドを用いて調査した結果です。値が大きい程、検索された回数が多いということになります。

対象とした検索キーワードは、「キャンプ場」「テント」「焚火台」「グランピング」の4種類で、期間は2009年から2023年となります。

何れも、2013年頃から漸増し、2021年をピークに右肩下がりになっています。特に焚火台の落ち込みは激しく、2023年は、ピーク時の55%にまで落ち込んでしまいます。焚火台は、初心者キャンパーからの脱却にあたってキーになるアイテムですから、21年を境に初心者から中級者へ移行したいと思うキャンパーが減少したと推定されます。言い方を変えれば、20~21年の盛り上がりはにわかキャンパーによる影響を反映しており、その後はキャンプから離れていった可能性を示唆しています。

面白いのがグランピングです。2015年から検索キーワードとして浮上してきているのは、BE-PALの2015年8月号で特集が組まれたことに符合します。

その後、2019年から急増し、22年にピークを迎えますが、23年の落ち込みは、他のワードに比べて緩やかなことから、グランピングが一定程度認知されたことが推察されます。

以上の結果から、グランピングを除く各ワードが2013年から漸増している点は、キャンプ人口とも符合しますので、消費者のキャンプに対する興味が表れていると言えます。一方で、コロナ禍突入移行も検索回数が増加していることは、キャンプ人口の落ち込みとは乖離しています。この辺は、雑誌の発行部数とも符合するので、2019年のアクセス数からの増加分は新規キャンパーの影響が大きいと推察されます。つまり、コロナ禍でのキャンプ人口減少分を新規キャンパーが下支えしたと考えられます。

但し、この推察には弱点があり、コロナ禍でキャンプに行けないキャンパーが、雑誌やWEBでその欲求を満たすための代償行為の結果とも言えます。どちらが正しいかは、次章で考察することにします。


ブーム終了と言われつつ、キャンプ場が混んでいるワケ

では、キャンプ人口が減っているのに、なぜキャンプ場が混んでいるとみんな言っているのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。1つは、1人当たりのキャンプ回数が増加したことです。

出典:オートキャンプ白書2023

オートキャンプ白書2023によれば、1年間の平均キャンプ回数・泊数ともに増加しており、2022年では、年間平均5.4回、7.2泊となっています。ちなみに、去年の私のキャンプ回数は7回・18泊でした。毎月行っていたころに比べると、回数は伸びませんでしたが、九州へキャンプ旅行に行ったおかげで泊数は稼げました(苦笑)。


これに従い、キャンプ場の稼働率も上昇傾向にあります。

コロナ禍に突入した2020年こそ稼働率が若干下がっていますが、それ以降も伸びていますので、多数のキャンパーがより多くキャンプに行っていることが伺えます。ふもとっぱらやほったらかしキャンプ場のような人気キャンプ場が、常にキャンセル待ちになっている理由は、この事からも伺われます。


キャンプはオワコンか?

以上の事から、2020年~2022年のキャンプ人口の落ち込みは、既存キャンパーがコロナ禍でキャンプを控えた一方、新規キャンパーの流入に加え、既存キャンパーの利用回数・泊数の伸びがキャンプ人口の減少以上に下支えすることに繋がったと考えられます。一方、コロナ禍中にも係わらず、アウトドア雑誌販売とWEB検索数が伸びたことから、2021~2022年あたりにプチキャンプバブルがあったと見られ、2023年以降の落ち込みは、バブルにつられた新規キャンパーが定着しなかったと考えられます。

市場としては、多くのキャンプギアが品薄になったことからも、プチキャンプバブルがあったことを物語っています。実際、2022年5月に発売されたコールマンのガソリンランタン286Aレッドは、発売直後は品薄状態が続き、ネット上では定価の1.5倍以上の値段で取引されていました。

筆者所有の286Aレッド。左が2022年モデル、右が1988年モデル。

レッド以外にも、コールマンのガソリンランタンが店頭で軒並み品切れとなり、一時期は全く入手できなくなっていました。その後、2023年に入ってからは、急激に店頭在庫が復活、ネット上の価格も落ち着きましたので、将にキャンプバブルを象徴するような商品となりました。

また、販売店に関しても、WILD-1では今年の1月に異例の値引きセールが行われていたりと、在庫処分の動きが見られます。スノーピークほどでは無いにせよ、一定程度のバブル後遺症が見られ、こういったこともキャンプオワコン説に繋がったのでしょう。


さて、結局キャンプはオワコンなのかと聞かれると、おそらく違うというのが私の答えです。少なくとも、2020年からの3年間は、キャンプ人口の減少に反して市場の拡大があったことから、バブルがあったことは事実です。その裏で、多くのにわかキャンパーが生まれ、おそらくは定着しなかったと推察されます。キャンプオワコン説は、このプチバブル状態が弾けたことに起因すると言えるでしょう。

2023年のキャンプ人口は、白書が出るまで分かりませんが、大きく伸びているとは考えにくいです。それに伴い、キャンプ道具の市場はある程度シュリンクすることが予想されます。やはり、新規キャンパーの参入が無ければ、テントやテーブル、チェアなどの商品の動きは鈍りますし、買い足し需要も金額的には、新規参入に比べれば低く抑えられるからです。一方で、2013年頃にキャンプを始めたベテランキャンパーにとっては、テントやウェアなどの買い替え需要が発生する時期でもありますから、それによって堅調に推移する可能性も考えられます。

また、一人当たりのキャンプ回数・泊数が順調に伸びれば、キャンプ場の経営が安定し、キャンプ業界の発展にも繋がります。グランピングが定期的にメディアでも取り上げられるようになり、アウトドアサウナなど更なる広がりを見せていることも、キャンプ業界にとってはプラスでしょう。

BE-PALを創刊以来愛読している私は、第1次キャンプブームからずっとこの業界を見てきましたので、たとえオワコンと言われようが今後もキャンプを続けるでしょうし、プチバブルが弾けただけであれば、キャンプ業界に大きな影響は無いでしょうから、私としては寧ろにわかキャンパーが減って快適にキャンプができるようになることを歓迎したいと思います(笑)。



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