和式ブッシュクラフトナイフ トヨクニ 独遊

2023年12月4日

ナイフ沼

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久しぶりのナイフネタです。

今回ご紹介するのは、土佐打刃物トヨクニ(豊国鍛工場)が造る土佐鍛造フルタングアウトドアナイフ独遊(ひとりあそび)です。


土佐打刃物と独遊について

独遊は、トヨクニの鍛冶師であり四代目晶之(まさの)の名を受け継ぐ濱口誠氏の手による、オリジナリティあふれる和式ナイフです。

土佐打刃物といえば、鉈、特に剣鉈が有名です。剣鉈は、狩猟の場面で、罠にかかった猪や鹿にとどめを刺す時に使われる鉈で、日本刀のような形状をしています。

出典:鍛冶屋トヨクニ

剣鉈は様々な長さの物がありますが、何れもとどめを刺す(つまりは心臓を突き刺す)ための刃物ですから、長さもそれなりにあり、キャンプでナイフとして使うにはいささか憚られるものがあります。

一方、ブッシュクラフト向けナイフは、バトニングで薪を割ったりしますから、それなりの耐久性が求められます。トヨクニは、鉈だけでなく、包丁や渓流釣り向けのナイフなども製造していましたが、ブッシュクラフトのような場面での耐久性という点では見劣りします。

そこで生み出されたのが、剣鉈の切れ味とブッシュクラフト向けの耐久性を兼ね備えたナイフ「独遊」です。


独遊(ひとりあそび)

  • 刃長:115mm
  • 全長:245mm
  • 刃厚:4.5mm
  • 重量:180g
  • 鋼材:土佐オリジナル白鋼


独遊は、剣鉈の流れを汲む和式刃物と、ブッシュクラフトの本場スカンジナビアンスタイルのナイフが融合したようなナイフです。

上から、モーラ・コンパニオンスパーク、独遊、モーラ・ガーバーグ

ブレード形状は、ポイントに向かって緩やかなアールを描くドロップポイント。

鎬の幅は、スカンジグラインド程ではありませんが、やや幅広になっており、全面に槌目が入っています。

エッジはコンベックスグラインドに仕上げられており、エッジ角は約12~20度。スカンジグラインドのガーバーグは約26度ですから、それに比べると鋭角ですが、一般的なナイフとしてはかなり鈍角な方です。

刃厚は4.5mmと、かなり厚く、スパインはポイント側が山型に削り出されています。これは、剣鉈や一部の日本刀にも見られる、日本の刃物固有のデザインです。

タングは、勿論フルタングで、ハンドルの代わりにパラコードが巻かれています。


切れ味

切れ味については、和式刃物らしい切れ味で、枝からトマトまで、なんでもスパッと切れます。鋼材は、土佐オリジナル白鋼となっていますが、おそらく包丁などに使われてる白紙鋼と同様だと思います。硬度が気になるところですが、トヨクニのWEBサイトの土佐オリジナル白鋼の紹介記事によるとHRC59となっていますから、和包丁よりは低めで、耐久性にやや振った仕上がりになっています。

そのおかげもあって、広葉樹のバトニングも難なくこなしてくれます。

また、フェザースティックなども、作りやすく、炭素鋼ならではの切れ味の良さを堪能できます。


耐久性

耐久性については、4.5mmという刃厚と、コンベックスに仕上げられたブレード形状とが相まって、ブッシュクラフトでのハードな使い方に耐える造りになっています。

ただ、ポイントがかなり鋭角なため、ポイント部分の耐久性は劣ります。

私も、かなりハードなバトニングを試みたところ、ポイントが欠けてしまいました。

白紙鋼は炭素鋼ですから、最新のステンレス鋼に比べると靭性や耐衝撃性では一歩劣りますし、形状も一般的なドロップポイントに比べるとかなり鋭角なため、ポイントの耐久性に難があります。私も、「欠けるかもなー」と思いながらぶっ叩いていたので、これは致し方ありません。

ポイントの欠けについては、少し鈍角にして研ぎ直せば良いだけですし、多少鈍角に研いでも充分鋭利に仕上がりますので、むしろその方がこのナイフの使い方に合っています。

問題は、やはり錆びやすさでしょうか。炭素鋼ですので、錆には弱く、塩分が多い物などを切った時は、錆びる前に拭き取ることが必要となります。

独遊は、全面に錆止めのためか薄い塗装(おそらくアクリル塗料)が施されていますが、耐久性が低いため、爪で引っ掻いた程度でも剥がれてしまいます。この点は、パラコード巻きのハンドル部も同様のため、長期利用で塗装が剥がれると、錆の心配があります。

写真は、パラコードを解いたハンドル部分のアップです。塗装にパラコードの繊維パターンが付いていることからも、耐久性には期待できないことが分かります。

私は、パラコードを濡らしてしまったら、水気をタオルでとり除き、乾燥させるように心がけています。また、キャンプ使用後は、パラコードを解いてメンテナンスを行っているため、今の所錆は出ていません。


握りやすさ・取り回し

パラコード巻きのハンドルは、賛否両論があると思いますが、それ程悪くはありません。勿論、マイカルタハンドルのような手に吸い付く感触はありませんが、グリップ力もそれなりで、使い勝手は悪くありません。

また、パラコードですから、自分で好みのパラコードを巻き直すこともできるので、カスタム性という点でも、楽しみが広がります。

ただ、指をガードするヒルトの形状が無いため、安全性の面でやや劣ります。

タング部分には窪みが造られているのですが、パラコードを巻いてしまうこともあり、指が滑って刃に当たるのを防ぐという観点では、難点があります。


ケース(鞘)については、厚手の本革が使われており、出来も非常に良いので、満足度は高いです。しかし、こちらもストッパー等が無いため、安全性の面では少し劣ります。

ただ、ケース収納時に、ハンドル部分のパラコードが革に掛かるため、簡単に抜けることはありませんから、実用面ではあまり気になりません。


使い勝手

ナイフとしては、和式刃物とスカンジナイフの中間といった形状ですから、調理からブッシュクラフトまで何でもこなせるナイフに仕上がっています。

肉を切ったりすると、その切れ味に感動すら覚えますし、バトニングや木工でハードに使ってもエッジの持ちは良好ですから、これ一本で何でもこなせます。

エッジの角度についてですが、箱出しの角度が20度前後ですから、ハードに使うには少し鋭角すぎます。ただ、炭素鋼特有の硬さと粘りからくる、絶妙の切れ味が魅力でもあるので、あえてそのままの角度で使うのもアリかと思います。

あくまで私の感覚ですが、炭素鋼にしては、ハードに使っても刃こぼれや潰れは意外と少なく、セカンダリーエッジを付けなくてもそれなりに使えます。

それに、一般的な包丁同様、市販の人口砥石で十分研げますから、ガンガン使ってガシガシ研ぐのがこのナイフに合った使い方だと思います。


総評

和式ナイフは、伝統的なスタイルに寄りすぎると、耐久性やメンテナンス性の面でアウトドアでは使い難くなるのですが、独遊は、アウトドアナイフを標榜するだけあって、とても使いやすいナイフに仕上げられています。

これなら、積極的にキャンプで使いたくなりますし、ひとりあそびという名の通り、ソロキャンプでこそ光るアイテムと言えるでしょう。


価格は、税込み16,500円と少し高額ではありますが、バークリバーやESEEに比べれば安いものです。パラコードの色によるバリエーションもありますが、後から好きな色を巻き直せば良いので、買う時にはあまり迷わず在庫があるものを買うのが良いでしょう。


私は、普段のファミリーキャンプなどでは、メンテナンス性の面からステンレス製ナイフを使うことが多いのですが、独遊には、最新のステンレス鋼材には無い魅力があります。切れ味やブレード肌なども、モーラなどの炭素鋼とはまた違った魅力があり、それがこのナイフの個性に繋がっています。

炭素鋼ゆえの錆び易さという欠点はありますが、一方で研ぎやすくメンテナンスもしやすいので、実用面ではあまり欠点として意識されません。

寧ろ、使う喜び、持つ喜びがあるので、個人的にはとても気に入っているナイフです。





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