アウトドアショップのプライベートブランドとAmazon・楽天との関係(2)

2020年2月2日

コラム

t f B! P L
ここ数年、アウトドアショップがプライベートブランド(PB)を積極的に展開しています。PBとは、小売業が主業務の会社が、商品企画・製造(実際には外注)している商品のことで、イオンのトップバリューなどが有名です。
今回は、ちょっとビジネスっぽい記事になりますが、アウトドアショップのPBが盛んになった理由と、今後の展開についての考察を3回シリーズでお伝えしていきます。


第一回はこちら

2回目の今回は、アマゾンのプライベートブランド戦略と、それに対抗するアウトドアショップのECサイトについて考えていきます。


PBを増やすアマゾン

最近、アマゾンは独自のPBブランドを展開しており、全世界では60種類以上に上るようです。Amazonベーシックが最も有名ですが、それ以外にも様々なPBを展開しています。最近では、カルビーのフルグラやドトールのコーヒーなど、NBの名前とアマゾンの「SOLIMO(ソリモ)」というPBを両方併記する商品(ダブルブランド)も出てきています。(https://www.ryutsuu.biz/commodity/l070842.html

キャンプ用品関連でも、Amazonベーシックからシュラフやチェア、バックパックなどが販売されています。現時点では高付加価値というよりは、コスパを狙った商品が多いですが、コールマンのインフィニティチェアそっくりなゼログラビティーチェアなどのように、コスパと性能を両立させているような商品も出てきています。

アウトドア・キャンプ用品のPBをアマゾンが作るとどうなるか

第二次キャンプブームと言われている昨今ですが、オートキャンプ白書2019年によると、2018年のオートキャンプ参加人口は850万人で、第一次キャンプブームのピークだった1996年の1580万人に比べれば約半分です。また、キャンプギアの大多数は耐久消費財であるため、一度買うと早々買い替える物でもありません(キャンプ沼にハマれば別ですが)。そのような商品カテゴリでは、NBから大量に入荷してPBとして安く販売するというモデルより、商品の個性を際立たせて差別化する方が、売り上げに対して有利に働きます。また、自社で製造元を開拓し、製造委託すればコストダウンも図れるため、個性的な商品をより安く提供できるようになります。これが、各アウトドアショップがPBを展開する基本戦略です。

一方、アマゾンのような膨大なユーザーを抱えているサービスでは、商品を大量かつ継続的に販売していくようなビジネスモデルの方がPBとしての効率が高まります。PB商品として安く大量に仕入れて、長期にわたって販売していくことで、薄利多売で利益を上げていくモデルです。Amazonベーシックが乾電池から始まったのが、その証左です。
しかし、売り上げ規模次第では、個性的でニッチな商品についても、積極的にPBを展開してくる可能性があります。アマゾンの得意な、ロングテールです。

ロングテールとは、売れ筋以外の商品も、継続して販売していくことで利益を得られるというビジネスモデルのことで、Wired誌の編集長だったクリス・アンダーソンによって提唱されました。ECでは、小売店のように売り場面積に制約されないため、売れない商品も在庫コストの許す限りストックして販売を継続することが可能です。一般的には、全商品の20%が80%の利益を上げているとされ、あまり売れない残り80%の商品は店頭から淘汰されていきます。ところが、この残り80%の商品を淘汰すると、少量とはいえ販売の機会損失となります。アマゾンは、ECによる販売と在庫のコストを最小化することで、機会損失を回避し、全体の売上を上げることに成功したのです。

もしも、アマゾンがエッジの効いたアウトドア・キャンプ用品をPBで出すとすれば、その商品が明確にNBや他のPBと差別化でき、ニッチでも確実に販売し続けられるという確証が得られた時だと思います。もしも、そうなったら、アウトドアショップのPBとガチンコの対決ということになり、アウトドアブランドも含めた三つ巴の戦いになるでしょう。まあ、キャンパーにとってはバリエーションが豊富になるので嬉しい限りですが、既存のアウトドアショップにとってはたまったものではありません。
とは言え、ディープなキャンパーの心を掴めるようなPB商品を開発するためには、相応の商品開発力が必要となりますので、アマゾンとしては費用対効果が合わない可能性が高いです。むしろ、アマゾン限定品として既存製品のバリエーション違いなどを展開してくると思われます。既にコールマンのコンパクトフォールディングチェアは、アマゾン限定色が販売されていますので、将来アマゾン×テンマクデザインのウッドストーブなどが出てくる可能性はあるのではと考えています。

アウトドアショップのECサイトはどうなる?

スーパーのPBは、差別化というよりもコスパが重視されますが、アウトドアギアはより差別化が重要となります。また、近年はガレージブランドと言われる、少量生産のメーカーが出す商品が注目されたりと、ますます商品の個性が重視され、多様化してくることは間違いありません。特に、インスタの影響は大きく、他人と違うものを持ちたいという所有欲と、それを「いいね!」してもらうという承認欲求を消費者が追い求めるため、結果としてより個性的な商品が求められていくことは間違いありません。
一方で、自社でECを展開することについては、今後コスト面も含めて意味が無くなってくると考えられます。なぜなら、インターネット上で販売している限り、同一商品であれば、価格競争にならざるを得ないからです。
皆さんも、価格コムを使ったことがあると思います。価格コム上では、毎日のように、全国のECショップで販売している商品の値段が更新され、常に最安値が判るようになっています。インターネット上のサービスですので、接客などのサービスは元々ありませんから、完全に価格勝負となります。そうなった場合、ECの維持・管理費、梱包・配送のコスト、代金回収など全ての面で、プラットフォーマーと呼ばれるアマゾンに分があります。なぜなら、アマゾンに代表されるECプラットフォーマーは、莫大な取引量を利用してスケールメリットを最大限に引き出すことができるからです。同じコールマンのテントを扱うにしても、ECサービス全体の維持費を莫大な点数の商品で割れるアマゾンと、アウトドア・キャンプ用品に限られるWILD-1とでは、母数が違いすぎるため、テント1点にかかるコストを最小化できるアマゾンに分があるという訳です。

アマゾンはECの会社では無く物流とクラウドの会社

アマゾンは、既にECの会社ではなく、物流事業とクラウドインフラ事業という2本柱の会社になっています。
ECの本屋から始まったアマゾンですが、創業当初から膨大な書籍の在庫を持ち、取次を通さず直販することで、本の流通を変えてきました。そして、商品を本以外に拡大し、フルフィルメント(受注、在庫管理、発送、集金までの全ての業務)を強化することで、世界最大の物流会社になったのです。
一方で、EC管理を通じて世界中にデータセンターを持ち、ネットワーク・サーバインフラを強化してきた結果、データセンターの余剰資産とECで培ったノウハウを利用して新たなサービスを展開したのがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)です(実は私の本業はこっちの業界です)。AWSは、事業規模としては、MicrosoftやGoogleを抜いて1位となっており、2019年現在において世界シェアの5割近くを押さえています。
このような、GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)の一角を担うAmazonに対して、ドメスティックな小売業者がEC分野で太刀打ちできるはずは無く、少なくともNB商品の販売においては、自社でサーバインフラからECシステム、バックヤードも含めたフルフィルメントサービスを維持するのは、コスト面から考えて最早メリットが無いと言えるでしょう。

会員サービスモデルで対抗可能か?

では、小売店が自社でECを行うメリットとは何でしょうか。端的に言えば、会員サービスモデルです。リアル店舗での会員を、バーチャルなネット上でも会員として囲い込み、自社サイトから買ってもらうというモデルで、この手のモデルの最大手が、ヨドバシカメラです。

ヨドバシカメラは、全国主要都市で23店舗を抱える大型小売店です。ヨドバシカメラの会員になれば買い上げ金額に応じて10%前後のポイントサービスが受けられます。ネットショップでも同様のサービスが受けられ、送料無料となっています。ポイントは、送料無料という点です。
ではなぜ無料にできるのでしょうか。これは、ネットショップは、ヨドバシカメラにとっては、アマゾン同様にフルフィルメントサービスに近いからです。ヨドバシカメラのECサイト「ヨドバシ.com」で注文された商品は、即座に本部で処理され、購入者の住居に最も近いヨドバシカメラの物流拠点から発送されます。配送は、エクストリーム便を除けば、宅配業者に委託され、購入者に届けられます。この、受注から発送までの作業を、極力簡便化することでコストカットし、送料を無料化しているのです。
一方、店舗では多数の社員が配置されており、人件費がかかります。また、特に旗艦店と呼ばれる大型店舗は、東京都新宿や大阪梅田などの一等地に位置するため、固定資産税も含めて莫大な経費がかかります。ヨドバシ.comであれば、これら店舗運営にかかる経費を全てカットできるため、それを物流費に回すことで送料無料を実現しているという訳です。

さて、このような会員サービスを含めた小売店舗ビジネスで、アマゾンにどこまで対抗できるかを考えてみましょう。
最も店舗数と売上規模が大きいゼビオグループを見てみると、2019年3月期決算2,316億円ですが、これはVictoriaGolfなども含めた全867店舗の総売り上げですので、アウトドア・キャンプ部門で考えると、スーパースポーツゼビオで約170店舗、アウトドア専門店のL-Breathだけでは67店舗に過ぎず、アウトドア・キャンプ用品だけではEC含めての維持は難しそうです。
テンマクデザインを展開するWILD-1は、株式会社カンセキというホームセンターなどを運営している会社のブランド店舗ですが、その2019年2月期の決算を見ると、売上高は全体で322億、WILD-1単体では僅か79億円です。
ちなみに、ヨドバシカメラ全体の2019年3月決算で、売上高6,931億円でした。このことから考えても、アウトドアショップが、ECにおいて会員サービスで囲い込みを続けるのは難しそうです。

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