アウトドアショップのプライベートブランドとAmazon・楽天との関係(1)

2020年1月31日

コラム

t f B! P L
タラスブルバ(TARAS BOULBA)
私は、このブランド名を聞いて、思わず懐かしさがこみ上げてきました。
小学生の時、初めて親父に買ってもらった登山靴がタラスブルバでした。確か大阪は天王寺にあった石井スポーツで買ってもらったと記憶しています。ソールパターンが独特で、当時ビブラムソール一色だった登山靴とは一線を画したデザインがとても気に入っていました。そんなタラスブルバが、2019年から新しくスポーツオーソリティのアウトドアブランドとして再出発したことを知り、私は時代の流れを感じました。


さて、ここ数年、アウトドアショップがプライベートブランド(PB)を積極的に展開しています。PBとは、小売業が主業務の会社が、商品企画・製造(実際には外注)している商品のことで、イオンのトップバリューなどが有名です。
今回は、ちょっとビジネスっぽい記事になりますが、アウトドアショップのPBが盛んになった理由と、今後の展開についての考察を3回シリーズでお伝えしていきます。

1回目の今回は、各社のプライベートブランドを紹介しつつ、アマゾンや楽天との間で何が起こっているのかをお伝えします。


プライベートブランド(PB)とは

PBは、スーパーなどで2000年代から盛んに取り入れられるようになり、その後、100円ショップやドン・キホーテなど、様々な小売業に波及していきました。
アウトドアショップも例外ではなく、WILD-1のテンマクデザインとクオルツ、ナチュラムのハイランダー、ヒマラヤのビジョンピークス、ゼビオ系列のホールアース、そしてスポーツオーソリティのタラスブルバ。今やアウトドア界もPBの群雄割拠という状態です。
さて、なぜ小売店がPBを推進するかというと、より安く商品を提供できることと、より高付加価値な商品を展開して他社と差別化できることの2点にあります。

ナショナルブランド(NB:オリジナルメーカーのブランド)には、広告宣伝費などの諸経費が原価に含まれているため、卸値がPBより高くなります。同等商品をメーカーからOEM供給される場合は、特にそうです。例えばチョコレート菓子であれば、小売業者はNB元に、既存製品と同等の商品を大量に発注することで、コストを下げることが可能となります。PB商品の販促を行うのも小売業者側ですので、広告宣伝関連の経費も含まれないためより安く仕入れることができます。
また、PBは、小売業者が企画するため、顧客からの要望等を参考にして、既存製品にはない付加価値を付けることが可能になります。それによって、他の小売業者の販売商品と差別化し、売り上げ促進を図ることができるわけです。
ちなみに、NBでも自社工場を持っていないケースもあります。NIKEやadidasなどは、製品のデザインと設計のみを行い、一番安くて品質の高い製造会社と契約して商品の製造を委託しています。だから、みんなMade in Chinaになるわけです。

アウトドアショップが展開するPBに見える特性

アウトドアショップのPBラインアップを見ていると、それぞれの特性が見えてきます。先ずは、各PBを俯瞰してみます。

テンマクデザイン(tent-Mark Design)


WILD-1が展開するPB。2011年に、アイアンストーブを発売したのがブランドのスタート。
焚火タープシリーズなどコットン製品が豊富で、多くの焚火ストから支持されている。堀田貴之氏をはじめ、小雀陣二氏など著名なアウトドア人とのコラボが多く、痒い所に手が届く商品が多いことも特徴の一つ。
青空タープやウッドストーブなど、グッドデザイン賞なども多数受賞しており、個性的な商品が他社との差別化を図っている。

クオルツ(Qualtz)


テンマクデザイン同様、WILD-1が展開するPB。テンマクデザインに比べて、既存品をより低価格で提供している商品が多い。中には、フォールディングロッキングチェアのような個性的な製品も存在する。

ハイランダー(Hilander)


オンラインアウトドアショップのナチュラムが展開するPB。テントから寝袋まで、多数のキャンプギアを揃えており、ハイランダーの商品だけで、全て揃えることが可能なほど。
特にテント・タープは、ポリコットン(TC)の製品が多く、機能性も高い。
キャンプ界では、おそらく最初にキング・オブ・キャンパーズチェアと名高いカーミットチェアをパクったウッドフレームチェアを販売したことでも有名(?)。

ビジョンピークス(VISIONPEAKS)


スポーツ・アウトドアショップのヒマラヤが展開するPB。
テンマクデザインやハイランダー同様、ポリコットンのテント・タープを多数ラインアップ。他のPBと違う点としては、アパレルやバックなども豊富に揃えている。
ビジョンクエストというスポーツ商品のPBも展開している。

ホールアース(Whole Earth)


スーパースポーツゼビオが展開するPB。ブランドマークの青い地球のイラストが印象的で、キャンプ場などでも他との差別化が図れる。商品は比較的オーソドックスな物が多く、キャンプ初心者にも使いやすいデザインの製品が多い。

タラスブルバ(TARAS BOULBA)

スポーツオーソリティが展開するPB。元々1976年にasicsが展開していた、登山靴をメインとしたアウトドアブランド名だった。その後、2017年にスポーツオーソリティがブランド名を買収し、新たなブランドとしてスタート。
商品点数はまだ少ないが、ogawaのアポロン激似なキャタピラー2ルームシェルター6Pを販売するなど、これからが楽しみなブランド。
尚、スポーツオーソリティにはアルパインデザイン(Alpine DESIGN)というPBも存在する。
スポーツオーソリティがイオングループであるため、イオン店舗に多数入っている。

以上のように、各ブランドとも、様々な工夫をしながら差別化とコスパを図っています。
WILD-1は、テンマクは差別化、クオルツはコスパとPBを使い分けています。
ハイランダーは、商品点数が多く、ポリコットンのテントなどで差別化とコスパの両方を追及しています。これは、後述するAmazon・楽天との差別化も大きく影響しています。
ビジョンピークスは、特にテント・タープ類はテンマクのパクリっぽい商品が多く見られ、差別化については微妙な立ち位置に思えます。
ホールアースは、ゼビオのPBですが、同グループ会社にはアウトドア・キャンプ用品販売のエルブレスがあるため、立ち位置が微妙なブランドになっています。ゼビオのオンラインショップでも、同じ商品がゼビオとエルブレスの両方で販売されており、グループ会社同士でカニバる(カニバリズム)という珍しい現象が起きています。
タラスブルバには、個人的には期待していますが、商品点数も少なくこれからのブランドと言えます。

差別化の裏で起こっている、ECショップとAmazon・楽天との競合

小売業者がPBを展開する意義は、商品の差別化により自社店舗の売り上げを伸ばすことと、商品の仕入れ値の低減つまりコスパの良い商品を販売することにありました。ところが、アウトドアショップのPBには必ずしもこれが当てはまりません。ここでは、特にアマゾンの影響が大きいナチュラムを例にとって考えていきます。

ナチュラムは、1996年というインターネット黎明期からECを始めた会社で、フィッシング・アウトドア関連のECサイトとしては長年トップを走ってきた会社です。しかし、2018年頃からアマゾンに売り上げで負けるようになり、ECでの限界が見えてきます。ナチュラムを立ち上げた中島成浩元社長も語る通り、単なる小売・流通企業ではアマゾンに勝てなくなったのです。(https://netshop.impress.co.jp/node/5326
そこで、PBを投入することで、単なる小売業ではなく、他の小売店に無い商品を販売することで、シェア獲得を目指したのです。当然ですが、他の小売店でも販売している物であれば、最安値の店舗から購入されることになり、他の小売店と激しいコスト競争に晒されることになります。しかし、PBでしかも独自性が高ければ、自社店舗での売り上げを確保することができるという訳です。
私は、ハイランダーのブランドをここ数年見てきましたが、この目論見は、半分当たって半分外れたようです。ウッドフレームチェアに代表されるように、確かに、低価格で独自性のある商品を提供して、色々と話題作りにも成功してきました。しかし、それと同時に、商品自体に人気が出れば出るほど、アマゾンや楽天でも取り扱う必要が出てきたのです。本来であれば、業界的にカニバるアマゾンや楽天には出したく無い訳ですが、アマゾンや楽天は大量のユーザーを抱え、ポイントサービス等を含めたナチュラム単体では不可能なキャンペーンを行っています。そのため、これらに出店しないというのは、機会損失となりむしろマイナスとなってしまいます。
ただし、ハイランダーの商品を、アマゾンや楽天とナチュラム本体のサイトの金額と比較すると、商品にもよりますが微妙に値段が高く設定されていたりします。アマゾン・楽天では売り上げに対して手数料がかかりますので、その分を加味して値段設定をしているというのもあるでしょうが、僅かな値段差でナチュラム本体に誘導しようという目論見もあるのかもしれません。

さて、その他のブランドはどうかというと、テンマクデザイン(以下テンマク)なども苦労しているようです。テンマクは、他のPBと違って明確に差別化が図られているのが特徴で、WILD-1の店舗の売り上げに少なからず貢献しているはずです。そして、人気になればなるほど、ECでの機会損失が無視できなくなりますので、自社のECサイトでも販売することになります。ところが、ナチュラム同様に、アマゾン・楽天の顧客を無視できなくなり、両方のサイトでも販売しています。
幸い(?)、テンマクの商品にはウッドストーブなどの人気商品があるため、それらをアマゾンや楽天のどちらかで独占販売するなどして、差別化を図っているようです。ひょっとすると、販売手数料なども含め、両者と交渉しながら販売しているのかもしれません。仮にもしそうだとしたら、アマゾンと楽天という本来自社の競合に対して、どちらで商品を販売するか交渉し、ブランドのパイを自社も含めて取り合っていることになり、さながら戦国時代のような駆け引きが行われていそうで、興味は尽きません。

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