第2次キャンプブームに至るまでの道程と今後の展望

2021年2月22日

コラム

t f B! P L

1996年をピークに、一旦は終息したキャンプブームですが、2013年頃から上向き傾向にあり、現在のキャンプ人口は860万人と、ピーク時の54%程度にまで回復してきたことは、以前書いた通りです。

今回は、第2次キャンプブームと言われる現在に至るまでの道程と、キャンプを取り巻く環境を含め、今後の展望について考えてみます。



ロックフェスとキャンプの関係

キャンプブームに影響を与えたと考えられる一つに、俗にフェスと呼ばれる、ロックフェスティバルがあります。ロックフェスと言うと、往年のロックファンは、ジミヘンで伝説化したウッドストックを思い出すかも知れませんが、日本ではフジロックフェスティバル(略称フジロック)が有名です。

フジロックは、1997年に山梨県の富士天神山スキー場で1回目が開催された屋外型のロックフェスティバルです。1回目のフジロックは、交通網の不備や台風の影響など惨憺たるものでしたが、その後紆余曲折があり、1999年からは新潟県の苗場スキー場に会場が変更され、以降、毎年苗場で開催されています。会場が苗場に変更されても名前は「フジロック」というのが若干皮肉ですが、近年は、4日間で延べ12万5千人もの来場者を誇る、日本一のロックフェスティバルとして定着しました。

フジロックは、単純計算でも1日3万人以上の来場者がいる訳ですから、宿泊も大変なことになります。そのため苗場スキー場近隣のホテルは、8月のフジロック開催時期には1年前から予約でいっぱいになり、宿泊が問題になりました。そこで、2002年には、苗場プリンスホテル後方のスキー場にテントエリアを開設。近年では、毎年約1万7千人が利用するに至ります。

元々、ウッドストックなどの海外のロックフェスでも、来場者が会場近辺でキャンプ(米国ではキャンピングカー利用が多い)をするのが定番でしたので、日本のロックフェスもこの流れに乗るのは必然だったと言えます。

フジロックでのキャンプ場利用者数が1万7千人というのは、キャンプ人口を押し上げるにはインパクトが小さすぎますが、ヘリノックスのチェアワンがフェス参加者から重宝されるなど、キャンプへの入り口としては貢献していると思います(※)。


※結果としてパリピ(パーティ・ピープル)系キャンパーの増加を招いたという暗黒面もあるとされていますが、私はデータを持ち合わせていないので何とも言えません(苦笑)。


観光のコト消費として始まったグランピング

高規格キャンプ場としても有名な千葉県のTHE FARM。
充実したグランピング施設も人気で、場内に温泉まである。
出典:農園リゾート ザファーム

グランピングとは、英語の「Glamorous(グラマラス)」と「Camping(キャンピング)」を組み合わせた造語です。Glamorousは「魅力的な」「華やかな」という意味ですから、直訳すれば「魅力的なキャンプ」という意味になります。
元々は、アメリカのカリフォルニアが発祥で、主に西海岸のセレブリティ向けだった物が、一般にも浸透して広まったようです。グランピングという言葉が、日本でいつ頃から使われ出したか定かではありませんが、アウトドア雑誌BE-PALでは、2015年8月号で特集が組まれているので、その前後だと思われます。


グランピングは、これまでグルメやお土産といった「モノ消費」がメインだった観光業界に、「手軽に自然を体験する」という「コト消費」の考えを持ち込みました。キャンプなどの自然体験には興味があるけれど、準備やスキルに不安がある層に対して、簡便で快適なキャンプ体験ができるというのが売りです。実際、冷暖房完備のテント内にはベッドが設置されており、BBQなどの料理もスタッフがサポートしてくれるなど、ホテルの部屋をテントに変えたといった感じのプランが多く、旅行先でのアクティビティ感覚で体験できる手軽さが、若い女性を中心に多くの消費者を惹きつけました。
グランピングは、まだ新しい業態のため、統計データ等が不足していますが、グランピングに対応しているキャンプ場の増加や、星野リゾートの参入など、利用者・サービス事業者ともに増加傾向にあります。

インスタグラムの登場


近年のマーケティングでは、SNSは外すことができない要素となっています。中でもここ数年はインスタグラムが伸びており、多くのフォロアーを抱えるインスタグラマーが、インフルエンサーとしての影響力を発揮するようになってきました。
インスタグラムは、英語版が2010年にiOS版が登場し、2012年にはAndroidに対応、日本では2014年に日本語対応版がリリースされたのを皮切りに、一気に普及しました。
インスタグラムは、最早説明不要かもしれませんが、簡単に言えばスマホで撮った写真を、その場でネットで共有できるサービスです。キレイな写真や凝った写真をアップすることで、フォロアーを増やすことができるため、「インスタ映え」などという言葉も生み出され、若者を中心に「映える写真を撮る」ことが注目されました。


インスタグラムは、写真を通じたコミュニケーションですから、キャンプとの親和性が高く、多数のキャンパーがインスタグラムにのめり込んで行くことになりました。キャンプという非日常を直感的に伝えられるインスタグラムによって、キャンプ風景だけでなく、キャンプ場の情報や、キャンプ飯、キャンプギアなど、様々なキャンプ関連情報が拡散され、それを見たユーザーがインスパイアされるという循環が生まれたのです。
今の所、この好循環は成功しており、新規ユーザーの取り込みと、ユーザーのキャンプ沼化のツールとしてインスタグラムは機能しています。
この流れに、更に拍車をかけているのが、WEBメディアです。一部のヘビーキャンパーは、「取材希望」などのハッシュタグによって、WEBメディアに取り上げられる機会が増加、WEBメディア側は取材の容易化と、インスタグラムを通じてお互いWin-Winの関係にあります。

アウトドアメーカーの苦悩

私が愛用しているオガワの2ルームテント「ファシル」。
オガワブランドは何度も消滅の危機に瀕している。

1996年を頂点に、急落した第1次キャンプブーム。当然ですが、この落ち込みの影響をもろに受けたのは、アウトドアメーカーです。最もこの影響を受けたのは、小川テント(現キャンパルジャパン)でしょう。80年代後半から90年代にかけての第1次キャンプブーム時、テントメーカーとして、ダンロップと二分していたのが小川テントです。ダンロップは、山岳用テントが主力で、一方の小川テントは現在まで繋がる「オーナーロッジ」に代表されるキャンプ向けテントが主力でした。その後、ロゴスやスノーピークの参入もあり、キャンプ向けテントメーカーとして鎬を削っていくことになります。ところが、第1次キャンプブームの急激な落ち込みの影響をモロに受け、小川テントは苦境に陥ることになります。キャンパルジャパンの社史にも詳細が掲載されていないため、事の真相は不明ですが、これを機に経営が悪化したのは間違いありません。
経営状態が悪化した小川テントは、2000年にアウトドア・テント部門の小川キャンパルを分社化し、オガワのブランドを引き継ぎます。しかしその後、経営はさらに悪化、親会社の小川テントは2011年に破産、小川キャンパルも2015年に遂に倒産します。その後、オガワのブランドは現在のキャンパルジャパンに引き継がれ、現在に至ります。

詳細は後述しますが、キャンプ人口は、最盛期の1,580万人(1996年)から半分以下の705万人(2008年)にまで減少していますので、この間に小川テントの受けた影響は想像に難くありません。この影響は、当然小川テントだけでなく、ロゴスやスノーピークも受けています。ここからは、スノーピークを題材に、その後の展開を見ていきます。

スノーピーク本社に展示されているテントの数々。

1988年に、本格的にオートキャンプ市場に参入したスノーピークは、キャンプブームの波に乗り、順調に収益を伸ばします。1996年には、スノーピークに社名を変更、創業者の息子であり、オートキャンプ向け事業を始めた山井太(現会長)が社長に就任します。この年が、第1次キャンプブームのピークだったのは皮肉な話で、この後の急激な市場縮小に伴い、スノーピークも窮地に陥ります。販売網の整理等のコストカットに始まり、釣り具部門の売却など、様々な苦労を重ねます。そんな中、社内で見直されたのが、ユーザーの声です。どんなメーカーでも、ユーザーの声を聞くことはマーケティングの基本ですが、スノーピークは、キャンプという形でユーザーの声を聞く活動を開始していきます。1998年に「Snow Peak Way」と称するイベントを開始し、毎年全国を回り、キャンプを通じてユーザーと交流し、率直な意見を取り入れていきます。この活動の結果、2011年には本社を移転することとなり、キャンプ場と一体となった「スノーピーク ヘッドクォーターズ」が誕生します。

ヘッドクォーターズに併設されているミュージアム。

現在では、キャンプのトップブランドとして認知されているスノーピークですが、裏を返せば、様々な苦難を乗り越えてきた結果と言えます。

「Snow Peak Way」は、単にユーザーの意見を聞く場というだけでなく、ユーザーへの提案の場でもあります。ユーザーとのコミュニケーションを通じて、アウトドアの魅力・楽しさを伝えていくことを目的とされているため、キャンプ未経験者の参加を促しているところも、スノーピークらしいイベントと言えます。こういった、啓蒙的活動を更に行っていくことが、今後のキャンプ業界にとって重要なミッションの1つになるでしょう。

第2次キャンプブームは複合的な要因で起こっている

以上、見てきたように、近年のキャンプブームには、様々なことが関係しています。ここで、先ずはキャンプ人口を確認してみましょう。

出典:オートキャンプ白書2020、レジャー白書2016

グラフの緑の線がキャンプ人口ですが、1996年の1,580万人をピークとして、2005年には年間740万人と、ピーク時の半分を割り込み、以後2012年までは700万人台前半で推移します。増加に転じたのが、2013年で以降は前年比を割ることなく堅調に推移しています。
参考までに、スキー・スノーボード人口を併記しています(水色の線)。ピークがキャンプより2年遅く、暫くはほぼ維持していますが、2003年に急激に落ち込み、前年より440万人も減らしています。その後、一部の浮沈はありますが、人口の減少が続き、2014年にはキャンプ人口と逆転、2016年には580万人まで落ち込んでいます。データが2017年までしか見つからなかったので、直近は分かりませんが、右肩下がりが続いているのが分かります。
スキー・スノーボード(以下スキー)は、天候やオリンピックに左右されるため、キャンプと一概に比較できませんが、90年の第1次キャンプブームがピークの96年以降急激に下落したのに対し、スキーは暫く人気を維持していました。しかし、2000年代に入ってからはスキーも下落しているので、キャンプとスキーはある程度の相関があると言えます。以前書いた通り、90年代は、自動車は空前のRVブームで、これがスキーとキャンプに影響したのは間違いありません。RVブームは2000年以降は急激に落ち込みましたので、そういった点でも、ほぼ同時に起こったキャンプとスキーの凋落とも相関があると思われます。
潮目がかわったのが、2010年前後で、キャンプが横ばいなのに対し、スキーは下がり続けています。更に、2013年以降はキャンプが上向きになりますが、スキーは更に下がっています。相関的には、この2010~13年あたりで切れていると思われます。これの意味することは、2013年を境にキャンプが新しいユーザー層を取り込めたのに対し、スキーはそれができなかったということが考えられます。

図は、ここまで述べてきた第2次キャンプブーム影響を与えたムーブメントを時系列的にまとめたものです。


スノーピークを始めとする、アウトドアメーカーの試行錯誤が90年代末より続き、各種フェスの隆盛、2015年以降のグランピングとインスタグラムの普及により、新規ユーザーの取り込みが行われ、それが近年のキャンプブームに繋がっていると言えます。

また、あくまで私の感覚ですが、2010~15年頃を境に、リニューアルしたキャンプ場が増えてきていると感じています。90年代にオープンしたキャンプ場が、設備の更新時期に来ていることもあると思いますが、利用者が増えなければ設備投資はできないので、各キャンプ場も、キャンプブームの手ごたえを得ているのだと思います。

一方で、インスタグラムを始めとするSNSは、キャンプ人口を増加させるだけでなく、キャンプ関連の消費も喚起します。当然、インスタ映えしているキャンプギアを見て「これ欲しい!」となるのが人情ですが、この流れを支えているのがAmazonと楽天です。特にここ数年、Amazonで取り扱われているアウトドア関連の商品量は飛躍的に増加しており、売り上げの詳細は不明ですが、既存のアウトドアショップを脅かすまでに成長しています(詳細はこちら)。

消費者心理の流れとしては、
  1. インスタで映えるキャンプギア発見
  2. Amazon・楽天で探して購入
  3. 自宅で試す
  4. 自分もSNSにアップ
となる訳ですから、極端な話、アウトドアなのにインドアで完結してしまうのです。
この流れ、私も経験済みですので、きっと皆さんも経験があると思います(笑)。
こうして、キャンプを巡る好循環が生まれ、キャンプ人口の増加と、客単価の増加により、更なる好循環に繋がっているのが、第2次キャンプブームの現状と言えるでしょう。

以上のことから、一過性だった第1次キャンプブームと比較すると、第2次キャンプブームと言われる現状は、複合的な要因で起きていると言えます。キャンプ≒BBQ程度に捉えられていた第1次キャンプブームは、画一的かつ単調で、持続させる魅力に欠けていたため、一過性の物に終わってしまいました。しかし、現状は、グランピングからソロキャンプまで多様性に優れ、入り口も多種多様であり、ステップアップする方向性についても多くの選択肢があります。特に、ステップアップする選択肢については、メジャーブランドからガレージブランド、輸入ブランド等、第1次の時に比べると非常に幅広く存在し、焚火台ひとつとっても、100を超える商品が販売されています。


キャンプスタイルも、伝統的なファミリーキャンプからソロキャンプまで多様化しており、キャンパーの年代も幅が広がっています。
このような多様性が、ユーザーの個性に繋がり、持続的なムーブメントになっていると言え、最早一過性の物ではなくなりつつあると私は考えています。

ゆるキャン△の影響力を考える

第2次キャンプブームに、もう一つ影響を与えていると思われる要因があります。最早、キャンパーを自称する人であれば、知らない人はいないと思われるほど有名になったマンガ・アニメ作品「ゆるキャン△」です。

©あfろ 出典:ゆるキャン△公式サイト

本ブログでも、幾度か言及してきましたが、高校生の女の子達が冬キャンプをするという、ヴィジュアルに反して内容はガチキャンプという作品です。この作品を観ていると、各登場人物が使っているギアや、キャンプ場のチョイスなど、原作者のあfろ氏が、相当なベテランキャンパーであることも分かります。

2018年にアニメが放送され大ヒット、これをきっかけにキャンプを始める人が続出。その後、ドラマ化もされ、2021年1月からはアニメの第2クールが放送中、更に3月末にはドラマも第2クールが放送予定となっており、この人気は暫く続きそうです。


この人気にあやかろうというコトか、今では本屋のアウトドアコーナーに、ゆるキャン△を題材にした雑誌が並ぶまでになりました。


ところで、去年あたりから冬のキャンプ場で、ゆるキャン△をスマホやタブレットで観ている人を見かけるようになりました。中には、ノルディスクのアスガルドの幕にプロジェクションして観ているグループを見かけたこともあります。白い幕体に映像が透けて映っているので、外からでもすぐに分かります(笑)。

さて、ゆるキャン△を見てキャンプを始めたという人は、ネットでちょっと調べただけでもいっぱい出てくるので、それなりのボリュームはあるとは思いますが、私が注目しているのは、ゆるキャン△のストーリーが、冬のキャンプからスタートしている点です。

冬の本栖湖。写真右下が洪庵キャンプ場。

普通であれば、天候の良いGWあたりに、レクリエーション施設に併設されたようなキャンプ場でデビューというのが定石ですが、ゆるキャン△の第1話は冬の(11月頃?)洪庵キャンプ場からスタートします。洪庵キャンプ場のある本栖湖は、10月下旬には最低気温が5℃を下回るので、全く装備の無い初心者キャンパーがおいそれと手を出すのは無理な環境です。ある程度経験のあるキャンパーの方ならお分かりの通り、冬のキャンプは適当な装備で行くと、最悪の場合、低体温症などの命の危険がありますからシャレになりません。
第1クール最終話は、朝霧高原の富士山YMCAグローバルエコヴィレッジでのクリスマスキャンプですから、深夜には氷点下に達します。私が、ゆるキャン△をガチキャンと称する所以です。

ゆるキャン△の舞台となった富士山YMCAグローバルエコヴィレッジ。
最近、聖地巡礼と称し、無断でキャンプ場に侵入する困った輩がいるとのこと。

似たようなアウトドアマンガに「ヤマノススメ」という登山をモチーフにした作品がありますが、こちらは、定石通り高尾山から始まります。キャンプで言えば、スノーピーク ヘッドクォーターズでフルレンタルでキャンプしてみたと言ったところでしょうか。
ゆるキャン△も、キャンプ未経験者の主人公が、ステップアップしていく作品であれば、定石通り春から物語を始めるのが普通なのですが、これをあえて冬から始めているところがミソだと思っています(※)。

※原作が連載開始した「まんがタイムきららフォワード 2015年7月号」の発売日は2015年5月23日であることから、連載の定石からもGW前後辺りから物語を始めてもおかしくないのです。

私が何を言いたいかと言うと、ゆるキャン△を見て安易にキャンプに行きたいと言っても、冬のキャンプはハードルが高く、初心者が簡単に真似のできる物ではありません。ですから、ゆるキャン△は、中級者以上のキャンパーが対象の物語構成になっていると言えます。これは、安易な聖地巡礼(※)や、にわかキャンパーを防止するのに一定の効果があったのではと思います。むしろ、中級者以上のキャンパーに、冬のキャンプの楽しさを伝え、冬キャンプ人口の増加に繋がっていると考えられます。

(※)逆に、キャンプをしない聖地巡礼だけが目的の不届き者が、キャンプ場に無断で侵入して写真撮影などをしてトラブルを起こしていることは遺憾です。


私が毎年雪中キャンプに通う猪苗代湖モビレージも、通年営業は行っていない。

実は、冬キャンプの人口増加は、キャンプ業界にとっては歓迎すべきことなのです。キャンプは季節性の強いレジャーですので、利用客はGWと夏休み時期に集中するため、キャンプ場にとっては営業面で非常に効率の悪い事業なのです。そのため、冬場は休業しているキャンプ場が多く、私のような冬キャン好きにとっては困ったことになります。
ところが、冬場も需要が増加すれば、通年営業が可能となり、それだけ施設の近代化やスタッフの増加にも繋がり、結果としてキャンパーにとっても恩恵があります。
私としては、冬場にガラガラのキャンプ場を占有する楽しみが減りますが(苦笑)、ゆるキャン△がきっかけで、このような流れが加速するのであれば歓迎したいところです。

ゆるキャン△をもう少し掘り下げると、第3話ではキャンプ未経験者の「各務原なでしこ」が、ふもとっぱらでキャンプ中の「志摩リン」を訪ねて鍋を食べるシーンが出てきますが、この時なでしこは、姉の車で車中泊をしています。11月頃にテントで寝るには、モンベルのダウンハガー650クラスであれば、最低でも#2、できれば#1クラスのシュラフが必要となりますから、この判断は賢明です。
更に、現在放送中のシーズン2では、更に厳しい環境の山中湖で、なでしこのサークル仲間が不十分な下調べの結果、大失敗している場面が出てきます。山中湖周辺は朝霧高原周辺よりも標高が更に高く、1000m近くに達しますので、1月には最低気温マイナス10℃を下回ることもあります。こうした失敗は、初心者から中級者へステップアップする時にあり得る話ですから、作者も意図的に描写していると思われます。

以上、ゆるキャン△のガチキャンぶりは、冬キャンプを通じて、初心者への警鐘と、中級者へのステップアップを促している点も含めて、良く練られた作品だと思います。

ブームと言われている間はまだ定着していない

近年のキャンプ人口の増加は、新型コロナ禍とも相まって、マスコミ含め多方面から注目されています。結果として、ワークマンなどに代表される異業種からの参入や、ガレージブランド市場の活況に繋がっており、私も1人のキャンパーとしてこのブームを楽しんでいます。ただ、このブームが定着するのか、再び一過性のもので終わってしまうのかは、アウトドア業界だけでなく行政も含めた努力が必要だと考えています。

一番の課題は、国立公園にあります。米国の国立公園の歴史は古く、1872年にイエローストーンが最初の国立公園となっています。その後1890年には、シェラカップの元祖としても有名なジョン・ミューアの活動により、ヨセミテが国立公園に指定されます(詳細はこちら)。ヨセミテ公園は、1984年にはユネスコの世界自然遺産にも登録されており、世界的な国立公園となっています。

ヒグマ除けの電気柵で囲われた木道などが整備されている知床五湖。
園内を歩くためには、ビジターセンターで事前にレクチャーを受ける必要がある。

一方、日本には34か所の国立公園があり、そのうち屋久島、知床、小笠原の3つは世界自然遺産にも登録されています(※)。ところが、国立公園へのアクセスが整備されているのは、知床ぐらいで、あとは殆ど手つかずというのが実情です。米国のイエローストーンやヨセミテなどは、様々な観光アクティビティが用意されており、毎年多くの観光客を世界中から集めているのに比べると、圧倒的に貧弱と言わざるを得ません。国内外の観光客を引き入れるということは、地元の利益にもなり、国立公園自体の管理・運営を持続可能にすると言う点で、非常に重要です。米国の国立公園は、州・民間企業・NPO法人などが一体となって、国立公園の管理・運営を行っており、結果として自然環境保全に繋がっています。
国立公園で重要なことは、当然観光だけではありません。その自然環境を保全することも重要になります(むしろ本来の目的は環境保全です)。そのため、米国だけでなく、世界中の国立公園は、入園・入山が厳しく制限られており、入園にあたっても、ツアーガイドなしに入ることができないなどの条件が課されている公園が多く存在します。これは、多数の人が入園することによって環境に負荷がかかり、動植物の生態も含めて問題が発生することを防止するためです。そのため、米国のバーミリオン・クリフ国定公園の「ザ・ウェーブ」などは1日20人までに制限されており、入場するためには毎日開催されているくじ引きに当選しなければなりません。冗談みたいな話ですが、そこまでして自然環境を保全しているとも言えます。
ところが、日本の多くの国立公園は、入場制限など無く、ある意味無法地帯です。登山者によってゴミだらけとなった富士山が、世界自然遺産の登録に失敗、苦肉の策で文化遺産に登録されたことは皆さんの記憶に新しいと思いますが、これなど完全に本論からずれています。
ここであまり自然保護や環境問題にまで言及すると、本文が終わらなくなるのでこの辺で止めておきますが、日本も、国立公園を始めとする公園・地域を改めて整備し、国や地方の行政、アウトドアメーカーを主体とする各種企業、地元を含めたNPO法人などが、3身一体となって持続可能な自然環境を作り上げていくことが重要です。そうすることで、キャンプを始め、アウトドアを楽しむことが、文化として日本にも根付いていき、SDGsについて啓発していくことにも繋がることでしょう。

※環境省 https://www.env.go.jp/park/parks/index.html


最後に、昨年からの流れも踏まえた話しを少しだけ。
新型コロナ禍で人口が増えたのは、キャンプだけでなく、釣りも増えたと言われています。釣りと言っても様々ですが、特に波止釣りと言われる海釣りは、手軽なこともあり、ファミリーからベテランまで、多くの利用者が存在します。釣り人が多くなれば当然発生するのが、ゴミ問題です。糸や針などの仕掛け、食べ物のゴミ、釣り餌の残りなど、多くのゴミが波止場に捨てられ、地元の迷惑となっています。その結果、マナーの悪い釣り人が多い場所は、釣り禁止になったり、立入禁止になったりしています。ところが、立入禁止の柵を乗り越えて釣りをする人が続出しており、問題がより深刻化しているケースもあります。この問題は、新型コロナ禍以前からあった問題ですが、去年からにわか釣り人が増えて、更に悪化しているようです。
立入禁止は、マナーの悪さから来るものだけでなく、本当に危険な場合もあります。毎年、釣りで50人以上の人が亡くなっていますが、その多くは、高波が発生する場所や、落下すると危険な場所で釣りをしていて事故に遭っています。こういう危険な場所が立入禁止になっているのですが、これを無視して入釣する輩が後を絶ちません。
一方、本来は自由(といっても漁協などが黙認しているだけ)な波止場を我物顔で占有している輩もいます。地元のヌシのような人が多く、何十年も通っているからそこは自分の場所だと言わんばかりに、よそ者が入っていると愚痴を言ったり釣りの邪魔をしたりする人がいます。
また、自分と異なる釣りスタイルを非難する人もいます。ヘチ釣りvs浮き釣りなどは良くある話ですが、ルアー釣りなどは目の敵にされて罵詈雑言を浴びせられているのを見たこともあります。

以上、釣りのマナーに関して書きましたが、キャンプでも同じような光景を目にすることがよくあります。ゴミ問題、他人のサイトへの侵入、大音量で音楽をかけるなど、マナーの悪いキャンパーがいることは事実です。公営のキャンプ場の場合、それらが元で閉鎖されるケースも発生していますし、利用料金の値上げや、利用ルールの煩雑化にも繋がるため、善良なキャンパーにとっては迷惑千万です。

第2次キャンプブームが単なるブームで終わってしまうか、文化として根付くかは、今後のキャンパー1人ひとりの行動次第でもあります。


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