ハンターという名の最高級斧~グレンスフォシュ・ブルーク物語~

2024年4月11日

キャンプ沼 ナイフ沼 薪ストーブ 焚火

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キャンプでの焚火に欠かせないのが、薪を割るための刃物。ナイフのバトニングで割るという方法もありますが、一般的には、鉈か斧を使うことになります。 私は、断然斧派で、複数の斧を持っています。

そんな私でも、ずっと躊躇して買えずにいたのが、グレンスフォッシュ・ブルークです。値段が高いというのもありますが、製造数が少なく、入手が困難というのも大きな要因です。

しかし先日、遂に私も一振りのグレンスフォシュを入手しました。

ハンターです。


グレンスフォッシュ・ブルークについて

グレンスフォシュ・ブルークは、スウェーデンで1902年に創業した斧専門メーカーです。伝統的な鍛造技法で造られた斧は、薪ストーブ愛好家を始め薪割りや焚火を楽しむ人にとっては憧れの的であり、斧のロールスロイスとも言える存在です。

スウェーデンには、他にハクスバーナとハルタホースという斧メーカーがあり、創業順で言えば、ハクスバーナ(1689年)、ハルタホースの斧製造部門HULTS BRUK(1697年)に次いで3番目となり、比較的新しい会社となります。そんなグレンスフォシュを、世界一の斧メーカーにしたのが、ハンス・エリク・パーソンです。

20世紀は、工業化の歴史であり、斧の製造についても工業製品として大量生産の時代へと突入。更に、林業自体もチェンソーなどによる産業化が進み、斧は顧みらえることのない製品になっていきました。グレンスフォッシュも、そんな時代の流れの中で、過去の遺物として忘れ去られそうになったのですが、1989年に転機が訪れます。

熟練職人でありデザイナーでもあるハンス・エリク・パーソンは、グレンスフォシュの伝統的な鍛造技術に目を付け、工業製品では無く工芸品として斧を生まれ変わらせました。以来、ログビルダーや木工職人の要望に答える形で、伝統的な職人技術に裏打ちされた様々な斧を作り出し、世界的な評価を高めていったのです。


グレンスフォッシュの特徴

グレンスフォッシュの斧には、いくつかの特徴があります。

出典:ファイヤーサイド

1つ目は、1902年の創業以来、同じ機械・工具を使い続け、伝統的な製造技法を守り続けいていることです。鍛造のための大型ハンマーなど、多くの機械は常に直しながら使い続けられています。機械自体が手作りなため、メンテナンスのために操業が停止することも少なくなく、それが年間製造本数の少なさにも表れています。


出典:ファイヤーサイド

2つ目は、鍛造から研ぎ、柄付けまで、全てグレンスフォッシュの職人によって手作りされていることです。創業当時の技法で製造されているため、1振りづつ全て手作りとなるのは必然ですが、それを支えているのが多くの職人です。グレンスフォッシュは、かつて所属していた人も含め職人の名前が公表されており、技術継承も含めて職人の育成にも力を入れています。

また、手作りという点は、価格にも表れています。一般的に言えば、大型の斧の方が高価になると思われがちですが、グレンスフォッシュは全て手作りであるがため、小型の物ほど作るのが難しくなります。大型の物であれば、機械式の鍛造ハンマーなどが使えますが、小型の物はそれが使えず、まさに職人の"腕"頼みとなる訳です。小型の物でも、大型の物と変わらない価格になっているのはそのためです。


出典:ファイヤーサイド

3つ目は、品質への拘りです。グレンスフォッシュの斧は、全て手作業によって製造されるので、熟練の職人技とは言えある程度のばらつきは出ます。そのため、常に品質を見極め、職人が納得したもののみ製品として出荷されます。斧頭に刻まれた職人の名前は、品質の証であると同時に、彼らのクラフトマンシップの表れでもあります。


出典:ファイヤーサイド

4つ目は、素材への拘りです。斧頭に使われる鉄は、伝統的なスウェーデン鋼(炭素鋼)です。スウェーデン鋼とは、スウェーデンで産出された鉄鋼製で作られた鋼材のことで、不純物が少なく、刃物鋼材として適していることから、日本でも高級包丁の素材として使われることがあります。柄に関しても、ヒッコリーまたはブナ材を長期間にわたって自社工場内で乾燥させた物を使用しています。極限まで水分を抜くことで、割れや変形を防ぎ、長年の使用に耐えるように仕上げられています。


多彩な種類を誇るグレンスフォッシュの斧

グレンスフォッシュは、斧の種類が多いことも大きな特徴です。薪割り斧だけでも6種類もあり、一部には、日本人の体形に合わせて柄の長さが調整されたモデルもあります。

出典:ファイヤーサイド

これは、グレンスフォッシュの日本総代理店を務めているファイヤーサイドが、グレンスフォッシュ本社に直接オーダーしているモデルになります。尚、ファイヤーサイドは、日本で唯一スウェーデンの本社と同様の斧頭に柄を取り付ける機械を持っていますので、柄の付け替えをオーダーすることも可能です。


キャンプ向けの物としても、多数の種類があります。最小のハンドハチェットから小型フォレストまで、斧頭の形状や重量、柄の長さなどが、それぞれの使い勝手に合わせて造られています。

出典:ファイヤーサイド

その中で、私が選んだのが、少し風変わりなハンターです。


キャンプやブッシュクラフトで大活躍する「ハンター」

ハンターは、その名の通り元々ハンティングのための斧として作られました。

柄の長さが473mmと少し長めになっているため、片手・両手のどちらでも使うことができます。

刃渡りは85mmと、ハンドハチェットの標準モデル「ワイルドライフ」に比べ5mm大きく、斧頭重量も600gと少し重めに作られています。

斧頭は、刃の部分が薄く作られており、枝を切ったり、チョッピングで木を削ったりするのに向いています。

写真左が「ハンター」、右がハクスバーナのハチェット「ヤンキー」。
特に刃の厚みが異なるのが分かる。

これは、森の中で木を集めて、焚き付けや薪を作るための物で、まさにブッシュクラフト向きと言えます。


最大の特徴は、斧頭の後部が特殊研磨によって鏡面仕上げになっている事でしょう。

元々は、この丸みを帯びた部分で、ウサギの皮を剥ぐのに適したように仕上げられたのだそうですが、キャンプでは、肉を叩いたり、ニンニクを潰したりするのに使えます。


私の入手したハンターには、MSのイニシャルが入っていました。グレンスフォッシュのWEBサイトを確認するとSundberg Mikaelさんの手によるものと分かります。


さて、薪割りとしての性能ですが、斧頭が薄いとはいえ、重量はハクスバーナの手斧などと同様600gありますから、破壊力は抜群です。それに、ナイフ並みの切れ味と称される刃は伊達ではなく、軽い力でも薪に刺さりますので、特に、斧を薪に刺して叩きつけて割るような場面で威力を発揮します。

また、少し長めの柄は、両手持ちで遠心力を効かせることができるため、太くて割れにくい薪でも一発で割れます。

ということで、数分で、小割の薪が完成。


私は、玉切りを買ってきて薪を自作しているのですが、薪ストーブの火持ちを考慮してわざと太めに割っているため、焚火に使う場合は小割にする必要があります。ですから、キャンプ場では、焚火前の薪割りは欠かせません。

ハンターは、そんな私の焚火ライフに、大きな楽しみを与えてくれました。


最後に

グレンスフォシュ・ブルークの斧には、斧の本という小冊子が付属しています。

元は、グレンスフォシュ・ブルークが製作した冊子で、スウェーデン語や英語、ドイツ語、フランス語などが存在しますが、日本向けにはファイヤーサイドが翻訳した冊子が付いてきます。

斧の紹介や歴史に始まり、使い方や薪の保存方法まで、斧好きだけでなく、焚火好きにもタマラナイ内容となっていますので、機会があれば是非手に取ってみてください。

この冊子のためだけにも、グレンスフォシュ・ブルークを買う価値はあります。





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