石鹸は環境にやさしい?キャンプでの洗い物を考える

2021年2月3日

コラム

t f B! P L

近年のキャンプ場は、洗い場も充実しており、冬場にはお湯が出るキャンプ場もあるぐらいです。

私が子供の頃のキャンプ場と言えば、トイレぐらいしかなく、水場は谷川や湧水を樋で引いているようなキャンプ場がざらでした。当然、シンクなど無く、山中で工夫しながらコッヘルを洗ったのを覚えています。勿論、RVキャンプ場などはそれなりの設備がありましたが、そんなキャンプ場はまだまだ珍しかったように思います。

最近のキャンプ場は、どんな山の中でも、シンクがあって蛇口をひねれば水が出るのが当たり前になりましたが、その一方でマナーの悪さが目立つようにもなりました。野菜の切りくずぐらいならまだマシな方で、食べ残しや、食品のパッケージゴミ、酷い場合は油をそのまま流して固まってしまっているのを見かけたこともあります。

こういった行為は、見た目のマナーの問題だけでなく、自然環境にも重大な影響を及ぼすことを知ってほしいと思います。


下水処理の仕組みを知ろう

下水が当たり前に整備されている地域に住んでいると気が付きませんが、実は日本でも下水施設が完全に整備されている地域はごく一部の都市部に限られます。多くの過疎地や山間部では、下水網を整備することができないため、浄化槽と呼ばれる特殊なタンクを用いて、トイレや流し台からの排水を処理して川に流しています。浄化槽が無い場合は、衛生管理上トイレだけくみ取り式で対応し、生活排水は直接河川に流している場合もあります。この場合は、食べ残しや油などがそのまま河川に流れ込むため、環境負荷を高めます。平たく言えば、環境汚染に繋がるのです。

キャンプは、自然と親しむことが目的ですから、キャンプ場の立地の多くは過疎地や山間部となり、必然的に下水処理が貧弱な地域となります。


浄化槽を導入していても充分とは言えない場合があります。浄化槽は、小型の下水処理場のようなもので、ろ過・沈殿して微生物により有機物を分解する構造になっています。浄化槽は、大きさによって処理できる有機物量に限界があるため、洗い物で食べ残しや油を流すと、処理能力を超えてしまい、有機物が分解されずに河川に流れてしまう可能性があります。また、浄化は微生物だよりのため、温度が低下すると急激に処理能力が落ちます。一概に言えませんが、だいたい冬場は10分の1程度に低下します。

自治体の下水処理場は、膨大な敷地を利用して、十分なばっ気処理(空気を送り込んで微生物の活性を上げる)を行っているので冬場でも問題になりませんが、キャンプ場で小さな浄化槽しかない場合は、冬場に大量の汚物を流してしまうと、簡単に処理能力を超えてしまうことが考えられます。


余談ですが、下水処理場と言っても、これと言って科学的な処理が行われている訳ではなく、汚水を浄化するのは微生物です。下水処理場の仕組みをざっくり言うと、①沈殿→②ばっ気による有機物の分解→③窒素・りんの除去→④塩素消毒→⑤放流となり、②と③の工程は微生物に頼っています。21世紀の科学が発達した現代社会でも、下水処理は微生物任せなのです(笑)。

ちなみに、③の窒素・リンの除去ですが、これは植物プランクトンの栄養素となるため、大量に河川に流すと、赤潮等の原因となるからです。昔は、リンを含んだ洗剤が多く、これが下水処理できずにそのまま海に流れ込み、赤潮の原因となっていました。公害の原因としてリンが指摘されるようになってからは、洗剤の無リン化が進み、現在ではリンが含まれる洗剤はほぼありません。今でもたまに、「無りん」という表記を洗剤で見かけるのは、赤潮の酷かった1960~70年代の名残です。


なぜ、食べ残しや油を流してはいけないのか


さて、では河川に流れ出た食べ残しや油はどうなるのでしょう?


はい、やっぱり微生物の力で分解されます。食べ残しや油は、化学的には有機物に含まれます。有機物は、微生物によって窒素やリンなどの無機物に分解され、これが草木が育つ栄養分として使われることで自然環境の中で循環します。


では、微生物が処理できなかった有機物はどうなるのでしょうか?


簡単に言えばヘドロになります。我々が俗にヘドロと呼んでいるのは、好気性細菌(酸素を利用して有機物を分解する細菌)によって分解できなかった有機物が、河川や湖沼の底に溜まり、嫌気性細菌(酸素を好まない細菌)の働きで硫化水素などが発生している状態の堆積物のことです。硫化水素などの硫化物は、黒色で異臭を放っているだけでなく、貧酸素状態となるため、動物にも悪影響を与えます。東京湾などでたまに起こる青潮は、このヘドロがまき上げられて、水中の酸素が欠乏する現象で、場合によっては魚が大量死することもあります。

ヘドロは、有機物が溜まってできるわけですから、食べ残しや油を流すことがヘドロに繋がり、環境にダメージを与えていることがお分かりいただけたかと思います。


少し専門的な話になりますが、水質汚濁を化学的に計測するための値として、生物化学的酸素消費量(BOD)があります。BODは、水1Lに含まれる有機物を分解するのに、微生物が必要とする酸素の量を表した値で、値が大きいほど酸素を多く必要とする=水が汚染されているということになります。

各食品をこのBODで計算すると、米のとぎ汁(2L)で3千mg/l、ラーメンの汁(200ml)で2.5万mg/l、使用済み天ぷら油(500ml)に至っては100万mg/lにもなります。これを、魚が生息できるBOD値まで薄めるためには、風呂おけ(300L)換算で、米のとぎ汁で4杯分、ラーメンの汁で3.3杯分、使用済み天ぷら油で330杯分となります。BODで表すと、いかに油が環境負荷が高いかお分かりいただけるかと思いますし、私が冒頭から拘ってきたわけもここにあります。油をそのまま流しに捨てることは、見た目などのマナーだけでなく、環境にも悪いのです。


洗剤が油を分解しているは×!

では、油を洗う時に洗剤を使うとどうでしょうか。残念ながら、洗剤で洗っても油を分解しているわけでは無いので、環境負荷は全く下がりません。洗剤は、界面活性剤という水と油の両方に馴染む物質が含まれており、これが油を水の中に溶かしてくれるため、水洗いで油汚れを落とすことができるのです。ですから、油を無機物に分解している分けでは無いので、洗剤で洗ってもBODの値は変わりません。むしろ、界面活性剤を分解するのも細菌ですので、BODをより高めてしまいます。


ここで、界面活性剤について、もう少し掘り下げて見ます。

石油から製造される合成界面活性剤には、「分岐型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)」、「ノニルフェノールエトキシレート(NPE)」などがありました。これらは洗浄力に優れるため、日本でも1960年代には大量に使用されました。ところが、ABSやNPEは生分解性が悪く、下水処理場も未整備だったため、多くの河川で深刻な公害を引き起こしました。昭和30年代生まれの方であれば、川面が泡立っているのを覚えている方も多いとおもいます。

その後、ABSの分解性を高めた「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)」が登場し、ABSやNPEにとって替わりました。更に、高級アルコール系の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)」、や「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)」などが登場し、更には肌への刺激性を抑えた「アルキル硫酸エステルナトリウム(AS)」なども開発され、現在市販されている洗剤は、これら複数の合成界面活性剤が調合されています。

界面活性剤の能力は、魚類のえらや両生類の皮膚呼吸にダメージを与えるため、自然界では速やかに分解される必要があります。先に挙げたABSなどは、自然界で分解され難いため、生物に対しても深刻な影響を与えたわけですが、AEやAESなどは3~5日ほど、比較的分解され難いと言われるLASでも10日前後で界面活性力が失われます。それに、界面活性力が直接生物にダメージを与えるには、それなりの濃度で一定時間滞留し続ける必要があるので、水で流しながら食器を洗う程度では深刻な問題にはなりません。むしろ、界面活性力よりも、それと共に流される有機物の方が問題になります。


天然由来成分だから環境にやさしいは間違い

よく、パーム油などの天然由来の成分を使っているので環境にやさしいなどというキャッチフレーズの製品がありますが、天然由来であろうが界面活性剤を化学的に合成して作っている時点で、石油由来の物と何ら変わりありません。原料がパーム油か石油かという違いだけで、合成界面活性剤として科学物質的には同様ですので、環境負荷も変わりません。


実は、話をややこしくしているのが、「せっけん」です。せっけん(石鹸)は、「脂肪酸ナトリウム」または「脂肪酸カリウム」で出来ており、これらも界面活性剤の一種です。作り方は、「油脂(パーム油等の植物油脂や牛脂などの動物油脂)」と「水酸化ナトリウム」または「水酸化カリウム」を混ぜて煮るだけです。作り方が単純ですから、理科の実験などで石鹸を作ったことがある方も多いと思います。このように、天然油脂から作られるため、せっけん=エコというイメージが先行していると言えます。

では、先ほどの合成界面活性剤と比較して、本当に環境負荷が低いのかと言うと、必ずしもそうとは言えません。せっけんの界面活性力は、水中のミネラル成分と結合し、容易に能力を失います。そのため、川などに流された石鹸成分は1~2日で界面活性力が失われます。せっけんは「1日で分解されるので環境にやさしい」と謳っている製品は、このことを指しています。

ところが、油脂分を主成分としているせっけんは、BODの点からは、合成界面活性剤に比べ大きく劣ります。つまり、界面活性力は分解されやすいが、完全に分解されるためにはそれなりに時間もかかり環境負荷も高いということになります。一般的に、せっけんのBODは合成洗剤に対して数倍と言われており、環境に優しいとは言えないということになります。更に、せっけんの界面活性力は合成界面活性剤と比べて弱いので、油汚れを洗うためにはより多くのせっけんが必要となります。そのため、結果的には、より環境負荷を高めてしまいます。


結局一番良いのは「流さない」こと

ここまで色々と書いてきましたが、結局一番いいのは、食べかすや油を流さないことです。使い終わった食器や鍋、フライパンなどは、汚れをキッチンペーパー等でよくふき取ってから洗うようにしましょう。油汚れがこびりついている場合は、湯をかけて汚れを浮かせてふき取ります。鍋やフライパンなどは、少量の水を入れて火にかけるのがベターです。これだけでもかなりの汚れを落とすことが可能です。

それでも取れない油汚れは、アルコール系のウェットティッシュで拭き取れば、ほぼ完全に落とすことができます。その後水洗いすれば、殆ど洗剤を使う必要はありません。



また、洗剤の代わりに、灰の灰汁を使う方法があります。焚火などで出た灰は、水に溶かすと強アルカリ性になるため、特にタンパク質の汚れを落とすのに役立ちます。フライパンなどを灰汁にしばらく浸け置きし、スポンジ等でこすれば、焦げ付きなどもキレイに落とすことができます。但し、強アルカリ性のため、素手だと肌が荒れますので、ゴム手袋をするなどして気を付けてください。



以上、色々と書いてきましたが、いかがでしょうか。

日本は、降雨量が多く、河川の流れも速いため、汚れは川に流してしまえばOKという時代が長く続きました。それが、60年代の深刻な環境問題を引き起こし、30年以上をかけて改善してきた歴史があります。

最近のキャンプブームで、多くの方がキャンプ場に訪れるようになったことは、決して悪い事ではありませんが、自然と親しむ環境に来ているわけですから、少しでも環境問題のことも考えるきっかけになって頂ければ幸いです。

汚れをキッチンペーパーで拭き取ることについては、キッチンペーパーを製造・輸入するにあたっても環境負荷が発生するため、ライフサイクルアセスメント(LCA)の面ではどちらが良いのかという批判もありますが、少なくとも下水処理が脆弱な山間部等のキャンプ場では有効だと私は考えています。


それにしても、今回の記事を書くにあたり、大学卒業以来久しぶりにBODなど専門的なことを調べなおしました。水質学を専攻していましたので、私にとっては専門分野ではありますが、サラリーマンになってからは完全に離れていたので結構大変でした。スキャット(業務用洗剤)に数百本の試験管を漬けて洗っていたのが懐かしい思い出です(苦笑)。

洗剤や界面活性剤については、専門外ですが、可能な限り調べてまとめたつもりですので、間違いがあればご指摘いただければ幸いです。



関連記事

このブログを検索

自己紹介

自分の写真
沼にハマると抜け出せなくなる性格の40代おっさん。関西出身で現在は東京都在住。嫁と娘の3人家族で年間30泊ほどキャンプに行って飲んだくれている。

このサイトについてのご質問・ご連絡

名前

メール *

メッセージ *

QooQ