JD Burfordマイナーズランプがあれば気分はパズー

2020年10月13日

キャンプ沼 ランタン

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先日、以前から欲しかったとあるランタンを手に入れました。
俗に、パズーランタンとも呼ばれているオイルランプです。



1986年公開のアニメ映画「天空の城ラピュタ」で、主人公のパズーが洞窟内で使っていたのが、このマイナーズランプ(カンブリアンランタン)です。

「天空の城ラピュタ」は、スタジオジブリ第1作目の作品で(「風の谷のナウシカ」の制作はトップクラフト)、何度も地上波で放送されており、近年では、ラストの滅びの言葉「バルス」を叫ぶシーンに合わせて、SNSに書き込みを行うことが恒例行事化していることでも有名です(笑)。


マイナーズランプ(カンブリアンランタン)とは

マイナー(Miner)とは、英語で鉱夫という意味で、鉱夫が使うランプということでマイナーズランプと呼ばれるようになりました。別名、カンブリアンランタンとも言われ、これは、このランプが作られた英国ウェールズのラテン語表記である「カンブリア」にちなんだ呼び方です。

余談ですが、地質学で言う「カンブリア紀」も、ウェールズでこの時代の地層の研究が進んだことから名付けられたものです。地質時代名には、研究の元となった地名にちなんだ名前が付けられることが多く、日本でも千葉県市原市の地層からチバニアンが認定されたことは記憶に新しいです。

尚、ランプとランタンの違いですが、ランプはオランダ語、ランタンは英語で、意味としては同じです。


マイナーズランプの歴史

マイナーズランプは、産業革命の中で生まれました。18世紀半ばから始まった産業革命は、紡績業などに代表される産業の工業化によってもたらされました。それまで、手作業に頼っていた製造業を自動化し、物品の大量生産を可能にしたのです。その動力源となったのが蒸気機関であり、工業化だけでなく蒸気船や汽車など、幅広い分野で急速に発展していきました。蒸気機関の燃料は石炭ですから、当時の産業革命花盛りし英国では、大量の石炭が必要となり、多くの炭鉱が掘られることとなります。特に、ウェールズ地方は、良質な石炭に恵まれており、ブラックゴールドと言われるほど高値で取引されていました。

このように、非常に炭鉱業が盛んなウェールズですが、一方で深刻な問題が起きてきました。石炭から出る可燃性ガスによる、爆発事故です。18世紀末から19世紀後半にかけての当時は、坑内の照明はロウソクやランプに頼っていたため、坑内に溜まった可燃性ガスに引火し、大爆発を起こす事故が多発、1814年だけでも英国全土で死者160人に達しました。

当時の対処方法は、ロウソクの炎を慎重に観察し、可燃性ガスの影響で青白い炎が出たら一旦退散、その後、長い棒の先にロウソクを括り付け、溜まったガスに引火・爆発させるという、今では考えられない荒っぽい方法でした。


このような危険な状況を改善するために開発されたのが、Safety lamp(安全灯)と言われるランプです。


デービーランプ
出典:Wikipedia


最初に安全灯を発明したのは、医師のウィリアム・リード・クラニーでした。1812年に彼が開発した安全灯は、ガラスでロウソク全体を覆い、上下に水槽を設けて、空気が水の中を通って吸排気する構造になっていました。水を通すことで、炎がランプの外に漏れてガスに引火することを防いだのです。この安全灯は、とても大きくて重く、常に空気を手動で送り込む必要があったため、あまり実用的ではありませんでした。しかし、クラニーの発明は、デービーやスチーブンソンに影響を与え、その後の安全灯開発の基礎となりました。

1815年、英国の化学者ハンフリー・デービーは、ランプの火を細かい金網で覆ったオイルランプを開発しました。空気や可燃性ガスは、金網を通り抜けてランプ内に入りますが、ランプの炎は細かい金網の外へ出ることが無く、周囲のガスに引火しない構造になっていました。また、ランプ内に入ったガスが燃えることで、炎の色や大きさが変わるため、可燃性ガスの濃度を見分けることも可能になりました。尚、ランプ本体は、鉄を使うと坑内で岩などに当たった時に火花が出て危険なため、真鍮製とされました。

開発者の名にちなんで、デービーランプと名付けられたこのランプは、炭鉱内での採掘作業をより安全なものにしましたが、一方で炭鉱夫をより危険な環境へ追いやることにもつながりました。デービーランプによって、これまで行けなかったような、可燃性ガスが充満した危険な採掘現場にも入ることができるようになったからです。デービーランプは、ランプを金網で囲っているだけの構造でしたから、ランプを落としたりすると衝撃で壊れ、爆発する事故が絶えませんでした。

また、デービーランプには重大な欠点もありました。長時間使用すると、金網が熱によって赤熱化し、炎が外へ出てしまったり、金網に少しでも穴が空いてしまうと、ランプ内で燃えたガスの炎が外に漏れてしまい、爆発が起きてしまうのです。全体を金網で覆っているため、ランプとしては暗いというのも課題でした。


この頃、土木技術者のジョージ・スチーブンソンが、ガラスを使った安全灯を開発します。ランプ全体をガラスで覆い、上に金網を付けたこのランプは、ジョーディーランプと呼ばれます。


ジョーディーランプ。左端はデービーランプ。
出典:Wikipedia


このランプも、デービーランプ同様に、問題を抱えていました。当時のガラスは割れやすく、金属製のカバーを付けていても、ちょっとした衝撃で割れてしまい、ガス爆発の原因となったのです。

このように、安全灯には色々と課題がありましたが、その後、デービーランプとジョーディーランプを元に様々な改良が加えられ、現在見られるようなマイナーズランプへと進化していったのです。

使いやすくなったマイナーズランプは、英国各地の炭鉱で使われるようになりますが、新たに別の問題を引き起こしました。炭鉱夫が、たばこを吸うためにマイナーズランプを開けるという行為が多発し、それが元で爆発事故につながったのです。たばこのために、折角の安全機構を台無しにするという、笑えるような笑えないような話ですが、当時の炭鉱夫は出来高払いだったので、少しの時間も惜しんだのでしょう。ラピュタの冒頭で、パズーが立坑のエレベーターを操作するシーンがありますが、多くの炭鉱は、大きな立坑を掘って、そこから横に掘り進んで行くのが定石でしたから、規模によっては採掘現場から立坑まで数キロもありました。たばこ一本吸うために、安全な立坑まで戻るのが面倒だった炭鉱夫たちの気持ちも分かります。事態を重く見た英国政府は、1872年に炭鉱規制法を改定し、マイナーズランプにロック機構を付けることを義務化したぐらいですから、危険を承知でマイナーズランプを開けてしまう行為が後を絶たなかったのでしょう。


現在入手できるマイナーズランプについて

さて、20世紀初頭には、トーマス・エジソンによって発明された電球が普及し、炭鉱内の作業も電気へと置き換えられていったため、マイナーズランプも姿を消していきました。そのため、本物のマイナーズランプは、アンティークをオークション等で入手するしかなく、値段も高価です。


一方で、現在でも新品で購入することができるマイナーズランプがあります。
1つは、E.Thomas & Williams Cambrian Lantern(E.トーマス&ウィリアムス カンブリアンランタン)です。E.Thomas & Williams社は、1860年に設立されたウェールズのオイルランプ製造会社で、マイナーズランプを炭鉱夫向けに製造・販売していました。その後、マイナーズランプの需要が無くなると、贈答用としてカンブリアンランタンを製造するようになり、エリザベス皇后やチャールズ皇太子といった皇室の方々へも献上されています。



作りは、贈答品ということもあって非常に丁寧で、シリアルナンバーも刻印されています。ただ、あくまで贈答品ですので、筒内の金網などは簡略化されており、構造的には本物のマイナーズランプとは異なります。

値段は、27,000円程と、かなり高価ですが、品質面を考えれば妥当な値段だと思います。


もう一つが、私の購入したJD Burford(ジェイディバーフォード)のマイナーズランプです。

JD Burfordは、ウェールズにある金属加工会社ですが、40年ほどの歴史しかありません。ですので、実際に炭鉱で使われていたマイナーズランプを製造した経験は無く、このランプは完全なイミテーション(模造品)です。



ネームプレートには、HOCKLEY LAMP&LIMELIGHT COMPANYという銘が入っており(この会社が実在していたかは不明)、シリアルナンバーは刻印されていません。



底部には、MADE IN WALES U.Kと刻印されています。



作りは、E.Thomas & Williamsの物より更に簡便化されており、金網は完全に省略されていて、筒内は単なる空洞になっています(苦笑)。



私が、この製品をあえて購入したのには訳があります。JD Burford製には、LとMの2サイズがあり、Lは高さ225mm×直径88mm重量780g、Mは高さ180mm×63mm重量395gです。500mlのペットボトルと比較すると、Lがペットボトルより一回り大きく、Mはだいぶ小さ目となります。

一方、E.Thomas & Williamsは、高さ260mm×直径90mm重量1400gと、JD BurfordのLよりも更に大きく、500mlのペットボトルを大きく超えるサイズとなります。

私は、パズーのランタンを目指しているので、より小さい方がリアリティがあるため、JD BurfordのMを選択しました。

因みに値段は、Lが18,920円、Mが17,820円(いずれも税込)で、Amazonや楽天でも取り扱われています。


最近は、E.Thomas & WilliamsとJD Burford以外にも、台湾製のマイナーズランプなどがAmazonなどで散見されるようになりましたが、ここはカンブリアンランタンですからウェールズ製に拘りたいところです。

え?ペトロマックスHK500はドイツ製ではなく中華製?
イヤー、マイッタマイッタ・・・


JD Burfordのマイナーズランプについて



JD Burfordのマイナーズランプは、総真鍮製で、重量感があります。後ろ側には、ランプの火を吹き消すための穴が空けられており、ちょっと見栄えが悪いです。

実は、このランプを数十分ほど使用していると、本体全体が持てなくなるほど熱くなるため、本体を外して火を消そうとすると、グローブをする必要があります。その対処として、火を吹き消す穴が開けられているのだと思うのですが、風が強いと勝手に火が消えてしまうという逆効果を生んでいます。穴が開閉できるようにフタを付けておいてもらえれば良かったのですが・・・。



傘状のヘッドは、本体にリベット留めされており、この武骨なデザインがマイナーズランプらしさを醸し出しています。



バーナー部は、上部本体とねじ込み式になっており、点火時などは一旦本体から外して点火することになります。



バーナー部は、丸芯で、単純に口金に差し込んであるだけですので、一旦火を点けてしまうと炎の大きさの調整が難しいです。



タンクの口金を外した状態。右の小さい穴は空気穴。

タンクは、口金のねじ込み穴があるだけですので、給油はこの小さな穴から行わなければなりません。ネットでは小型の漏斗が付いているという話が出ていましたが、私の物には付いていませんでした(苦笑)。

ただ、タンク容量が30mlと小さく、すぐに満タンになって溢れてしまうので、漏斗で入れるより、ピペットなどを使う方がベターです。

燃料は、通常のマイナーズランプであれば、灯油が使えるのですが、JD Burfordは、パラフィンオイルのみ対応となっています(詳細は後述)。



芯を出す長さは、2mm以下が推奨されており、長くすると煤が発生してしまいます。



炎の大きさは、このぐらいが丁度良く、これ以上大きいと煤が出るだけでなく、本体全体がかなり熱くなります。



暗闇で点灯していると、オイルランプ特有の揺らぎのある炎が、心を癒してくれます。

ただ、明るさとしては、かなり暗いので、照明器具としての用途には向いていません。炎を大きくすると煤がでるので、あくまで雰囲気を楽しむためのランプということで、実用性は諦めましょう(笑)。



ちなみに、スノーピークのガスランタン「ノクターン」と比べると、明るさは僅差でJD Burfordの勝ちといったところですが、使用感としてはノクターンの方が広く照らせるので明るく感じます。





JD Burfordは、E.Thomas & Williamsに比べて価格が1万近く安いため、機能面など色々と劣る部分があります。

E.Thomas & Williamsは、平芯12mm幅(4分芯)を採用しているため、JD Burfordよりも明るく、点灯後に火力調整ができるなど、機能面で優れています。



また、JD Burfordでは、完全に省略されている金網も、上部円筒のチムニー部入り口に金網が設けられているなど、マイナーズランプらしさが満載されています。



まあ、この色々と劣る部分については、納得して購入したのですが、JD Burfordは、品質面でも色々問題があることが判りました。



先ず、ネームプレートですが、下の支柱と見比べると、若干左にずれています。
元々、マイナーズランプはこういう物なのかもしれませんが、気になります(笑)。



更に、裏側の本体円筒の継ぎ目ですが、結構雑です。火を吹き消す穴があるため、余計に安っぽく見えます(-_-;)



バーナー部とタンクの継ぎ目の銀ロウも、いい加減な感じがします。一応オイル漏れは無さそうなので、穴は開いていないようですが、耐久性の面では不安があります。



極めつけは、本体ホヤ部分の組付け方法で、裏から見ると、ナットで留めてあります。ホヤを掃除するためには、このナットを全部外さなければならず、しかもナットが小さいので、作業が物凄くし難いです。



ちなみに、支柱は、本体上部のパーツとナットで留められており、分解することはできません。私は、支柱を外してしまったため、組み付けるのが大変でした。煙突になっている穴から指を突っ込んでナットを保持し、なんとか支柱をねじ込みましたが、二度と支柱は外さないと心に決めました(苦笑)。

本体は、上記写真以上には分解できないため、円筒内が煤で汚れたら、それを掃除するのは至難の業です(T_T)

こんなこともあって、灯油より煤の出にくいパラフィンオイル専用になっているのだと思います。どう考えても、分解・清掃することを前提に作られていないため、苦肉の策といったところでしょうか。



品質面での極めつけは、支柱のナットが、1本だけ2重になっていたことです。最初は、ミスって2つ付けてしまったのだと思ったのですが、分解したときに、1つだけナットが締め付けられないことに気が付きました。支柱側のねじ切り精度が悪く、ナットが十分に締まらないのです!
それを補うため、更に上からナットを追加して強引に締め付けてありました・・・。


うーん、英国紳士は神経質だと思っていたのですが、JD Burfordの職人は良くも悪くもアバウトみたいです(苦笑)。



以上、品質面では色々と疑問の残るJD Burfordのマイナーズランプですが、細かいことに目をつぶれば、雰囲気を充分に楽しむことができます。
私は、このマイナーズランプを、キャンプだけでなく自宅でも楽しんでいます。意味もなく部屋を暗くして、マイナーズランプを灯していると、思わずニヤニヤしてしまいます。


そんな私を見て、娘が一言。


バルス!!


おおーい、いくら、おとーさんがキャンプバカでも、バルスはないやろ~(泣)






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