大雨洪水対策に水陸両用車はどうだろう?

2020年7月29日

コラム

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先日の4連休には、キャンプに行った人も多いと思います。生憎、関東圏は雨続きで、もうじき8月だというのに未だに梅雨明けせず、このままでは梅雨明け宣言が無くなるかもしれないという気象予報士の話も聞こえてきます。

そんなことで、我が家は結局4連休を家でゴロゴロ過ごしてしまいましたが、先日、相模原のキャンプ場が浸水している映像を見て、行かなくて良かったと胸をなでおろした次第です。
神奈川県相模原市と言えば、道志川沿いに多くのキャンプ場がある、首都圏から至近の人気エリアです。しかし、道志川渓谷は雨に弱く、直ぐに増水するため、注意が必要なエリアでもあります。去年の台風19号では、甚大な被害に見舞われ、亡くなった方がいるぐらいですから、今年の梅雨でキャンプ場が浸水して、テントが流されるぐらいで済んだのであれば、僥倖と言えるでしょう。

一方、今年の梅雨は、熊本県を始めとする九州全域に渡り、洪水などの甚大な被害をもたらしました。また、被害は九州に留まらず、岐阜・長野・愛知などの中部地方、島根・広島などの中国地方にまで及ぼしました。その結果、令和2年7月豪雨という名称まで与えられ、未だに各地で浸水や土砂崩れなどの被害を拡大し続けています。

さて、台風や線状降水帯などの集中豪雨による災害が、毎年のように起こっていますが、実際にどれぐらい雨量が増えているかデータで見てみましょう。

令和2年版国土交通白書によると、「洪水や土砂災害を引き起こす大雨や短時間強雨の回数が増加している」とあります。
大雨について、日降水量が200mm以上となる年間の日数を「1901年から1930年」と「1990年から2019年」で比較すると、直近の30年間は約1.7倍の日数になっています。


また短時間強雨について、1時間の降水量が50mm以上となる年間の回数を「1976年から1985年」と「2010年から2019年」で比較すると、直近の10年間は約1.4倍の発生回数となっ ており、同様に長期的に増加しています。


この結果、災害の発生件数も年々増加しており、土砂災害で比較すると、「2010年から2019年」では、平均1476件と大きく上昇しています。


こうしてみると、やっぱりここ10~20年で、随分と大雨による災害が増えていることが判ります。令和2年7月豪雨では、特に球磨川の氾濫によって、人吉市を始めとする熊本県南部の多数の地域で浸水被害に遭ったことは皆さんもご存じの通りです。球磨川の氾濫については、支流の川辺川にダムを建設していれば、こんな被害は出さずに済んだという声もありますが、例えダムを建設していても今回の被害は防げなかったという専門家の意見もあります。
何れにせよ、ダムは万能ではなく、近年の豪雨はこれまでの想定を大きく超えてきているため、これまでの治水に対する考え方が通用しない時代に入ったと感じます。実際、避難所に逃げても、避難所自体が冠水する事例も発生しており、自分の身を守る方法について根本的に変えていかないといけないと思います。

そこで、ちょっと突飛かもしれませんが、水陸両用車両はどうだろうと気になりました。実は、東日本大震災以後、津波対策として「津波シェルター」なるものが販売されるようになり、実際に楽天でも販売されています。

出典:楽天

津波が来た時、このシェルター内に逃れて助けを待つという製品で、頑丈な外殻で水に浮くように作られています。これはこれで、洪水などでも役立ちそうですが、一次的に退避した後、自力で災害区域から脱出することを考えると、動かせた方が良いでしょう。それに、シェルターだと、洪水でどこに流されていくか分かりませんから(苦笑)。
一方、自動車は移動手段としては良いですが、洪水では役に立ちません。SUVでも最低地上高20cm程度ですから、最大でも水深40cm程度が限界です。
一応、僅かな距離であれば、時速10kmで水深60cmをエクストレイルで走破したという実験結果がありますが、長距離の移動は難しそうです。

JAF 冠水路走行テスト

人吉市の洪水で多くの車が流されている映像からも、自動車が洪水時には無力なことが判ります。
そこで、水陸両用車の出番となる訳です!?

旧ドイツ軍 シュヴィムワーゲン

出典:wikiペディア

いきなりマニアックな車ですが、シュヴィムワーゲンは、第二次世界大戦時にドイツ軍が運用した水陸両用車両です。開発は、今ではスポーツカーメーカーとして有名なポルシェで、大戦中に14,276輛が生産されました。
ドイツ軍は、アドルフ・ヒトラーの登場とナチス政権の成立により、軍の自動車化を進めていきます。「兵は拙速を尊ぶ」という言葉が孫氏の兵法にありますが、戦争は、敵よりも速く動き、先制攻撃を仕掛けることで、常に敵よりも有利に戦うことが重要となります。第1次世界大戦は、歩兵同士の戦いが主で、延々と続く塹壕戦でした。そのため、戦線が膠着し、長期間の戦闘を強いられたのですが、その反省から、ドイツ軍は自動車や戦車などで機械化し、敵陣に高速で侵攻することを可能としたのです。電撃戦と言われる、機械化部隊による高い機動力を活かした戦いの始まりです。
実は、ヒトラーは、この軍の機械化とともに、国民のモータリゼーションの振興にも意欲をもっていました。世界的にも有名なドイツの高速道路「アウトバーン」は、このモータリゼーションの一貫として整備されました。アウトバーンは1920年代から整備され始めましたが、ヒトラーはそれを大規模化し、1933年に本格的な建設を指示します。計画では、6路線、全長6,900kmを予定しており、1939年の第2次世界大戦勃発時にはおよそ3,000kmほどが完成していました。
このように、国を挙げてのモータリゼーションに取り組んでいたナチスドイツですから、軍の機械化も徹底的に行われていきます。それまで、徒歩か馬で移動していた歩兵を、自動車やトラックで移動するように変更し、キューベルワーゲンというオープントップの軍用自動車だけでも約52,000輌を製造することになります。
さて、機動力に徹底的に拘っていたドイツ軍は、渡河作戦でも自動車でそのまま渡れるようにすることを思いつきます。河を渡れない自動車では、一旦降車して徒歩で渡り、車は別途船などで移送することになります。これでは、拙速を尊ぶドイツ機械化部隊の名折れと言わんばかりに、河をそのまま渡れる車を開発することになります。キューベルワーゲンをベースにした、水陸両用車シュヴィムワーゲンの誕生です。

シュヴィムワーゲンは、バスタブ構造のボディで水に浮くように設計されており、接地性の悪い河原でも走行できるよう4輪駆動が採用されています。また、水上で航行するために、車体後部には跳ね上げ式のスクリューユニットが付いています。

出典:wikiペディア

スクリューユニットを下してエンジンとつながったシャフトに接続すると、スクリューが回転し川などを渡ることができます。

エンジンは、1,131ccの水平対向4気筒という、スバリストなら泣いて喜ぶエンジン。それもそのはず、今でも自動車で水平対向エンジンを作り続けているのは、シュヴィムワーゲン製造元のポルシェと、日本のスバルだけですから(笑)。
余談ですが、スバルと言えば、中島飛行機をルーツに持つ自動車会社です。中島飛行機は、太平洋戦争時に1式戦闘機「隼」や2式戦闘機「鍾馗」、4式戦闘機「疾風」(いずれも陸軍)などの名機を開発した会社です。更には、最も有名な海軍戦闘機「零戦」に「栄」という航空機用エンジンを提供していました。戦後、中島飛行機はGHQにより解体されてしまいましたが、多くの技術者が富士重工(現スバル)に移り、自動車の開発に従事していきます。ポルシェ同様、兵器開発に重要な役割を果たした会社が、水平対向エンジンを自動車向けに開発・製造していることに、技術者としての粋を感じます。
(※注:栄は星型エンジンで、水平対向エンジンとは直接関係ありません。)
話を戻しましょう。シュヴィムワーゲンに搭載されているエンジンについてですが、出力は、24.5馬力と、現在の軽自動車にも劣りますが、車体重量が約900kgと軽量なこともあり、整地走行で最高80km/h、水上走行で10km/hと中々の性能です。

この車、生憎(?)現在は生産されていないため、極めて入手が困難です。
最近、レストアされたシュヴィムワーゲンが、オークションで1558万円という驚きの価格で落札されました。
余談ですが、ココロ図書館というアニメで、主人公の3姉妹がこれに乗っていたことでもヲタクの間では有名です(苦笑)。

岡崎市消防本部 レッドサラマンダー

出典:岡崎市消防本部

「全地形対応車」、通称「レッドサラマンダー」。トミカからも発売されているので、ご存じの方も多いと思います。シンガポールの軍需企業STエンジニアリング製で、消防車の製造で有名なモリタが国内向けに小改造した物です。

出典:STエンジニアリング

レッドサラマンダー導入のきっかけは、2011年の東日本大震災。この時、津波による大量の瓦礫と土砂に阻まれ、救助活動が難航しました。これを受けて、荒れ地や泥地、瓦礫などが散乱しているような不整地でも走行可能で、救援物資輸送や救助活動が行える特殊車両として導入されました。
全長8.72m、全幅2.26m、高さ2.66m、車両重量約12.1tという大型特殊自動車。乗員数は、車両前部が4人、後部が6人で、最大積載量は4400kg。走行はゴム製の無限軌道(クローラー)で、最高速度は時速50km、最大登坂能力は50%(坂の傾斜角で約26.6度)、最大60cmの段差や最大2mの溝を乗り越えられ、水深1.2mまでなら走行可能です。
エンジンは、7.2Lのディーゼルで、最大出力303馬力(PS)、燃費は1Lあたり1kmと流石に大食いです(笑)。
地震や火山噴火、洪水などの災害対策として日本に導入されたレッドサラマンダーですが、導入されたのは1輌だけで、これで全国で発生する災害に対応しなければならないため、東西どちらにも移送可能な地として岡崎市が選ばれました。
2013年3月の導入以来、しばらく活躍の場が無く(むしろ活躍しない方が良いのですが)、「宝の持ち腐れ」とか「税金の無駄遣い」などと揶揄されました。しかし、2017年の九州豪雨を皮切りに、2018年の西日本豪雨、そして今回の7月豪雨でも出動し、一定の成果を上げています。
特に、土砂崩れによって寸断された道路を走行可能なことから、山間部で孤立した村への救助活動などで活躍しています。レッドサラマンダーは、一応水に浮くことも可能なため、洪水で水没した地域でも活動可能なのですが、水上走行性能が良くない等の理由から、そういった地域ではあまり活動していないようです。水上走行時には、履帯を動かして水かきとして使うため、シュヴィムワーゲンのようなスクリュー推進に比べて遅いという欠点がありますので、致し方が無いでしょう。

さて、このレッドサラマンダーのお値段は、1台1億1千万円!!
自治会の消防組合で購入するには高すぎますが、毎年のように起こる水害対策としては、各地に導入しても良さそうな気がします。

陸上自衛隊 AAV7

出典:防衛省・自衛隊

実は、今回の大本命がコレです。
米国海兵隊の水陸両用兵員輸送車として開発され、日本でも2013年から導入が進み、現在58輌が陸上自衛隊の水陸機動団で運用されています。水陸機動団は、中国の海洋進出に伴い、緊張の高まる尖閣諸島などの島嶼防衛を目的として、2018年に新設された日本版海兵隊とも言える部隊です。
AAV7は、敵軍に無人島が占領された場合、それを奪還するために、海から上陸するための装備として調達された物ですから、海上を航行することができます。

出典:防衛省・自衛隊

全長8.2m、全幅3.3m、全高3.3m、重量25.7t、搭乗員3名に加え、乗員25名を収容可能です。乗員は、当然フル装備の自衛隊員ですから、普通の一般人であれば、40名ぐらい収容できるんじゃないかと思います。
エンジンは、V型8気筒のディーゼルターボで、出力約530馬力(PS)と流石は軍用車両。最高速度は、整地走行で72.4km/h。水上航行時は、ウォータージェット推進を使用し、最高速度13km/hを誇ります。まあ、船舶に比べれば鈍重ですが、重量25.7tで最大14.5mmの耐弾能力を持つ装甲車ですから、それを差し引いて考えれば十分な性能でしょう(笑)。ちなみに、履帯を動かしての航行では7.2km/hだそうです。
AAV7なら、悪路は下より、浸水地域でも充分活躍できますので、洪水などの災害救助にはもってこいです。実際に、米国では、ハリケーンによる洪水災害でAAV7が出動しており、数々の救助活動を行っています。
また、装甲車ですから、多少の土砂崩れでも耐えることができるでしょう。勿論埋まってしまえば動くことはできませんが、土砂で押しつぶされることは無いでしょうから、シェルターとしても活躍すると思います。ですから、土砂災害警戒地域や浸水の危険がある地域に、事前にAAV7を設置しておき、いざとなったら、この中に逃げ込むと言うのが一番安全だと思います!
問題は、運転するのには、大型特殊免許と船舶免許の両方が必要なことと、1輌あたり約7億円と非常に高額な点ですかね・・・。
でも、全国の災害が発生しそうな地域に30~40輌配置しておけば、災害対策だけでなく有事の際には、武装して防衛行動にも使えると、一石二鳥!?


以上、防災対策として使える水陸両用車を考えてみましたが、まあ・・・個人で買うのはちょっと(全く)無理ですね。
個人的には、AAV7を庭に置いておきたいんですが、全長8mオーバーのこの車体を置くためには、自宅をぶっ壊さないといけないので本末転倒です(苦笑)。


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