G・サカイ サビナイフ1【錆びないナイフ!?異次元の耐食性】

2019年8月8日

ナイフ沼

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キャンプ好きの方の中には、釣りをする方も多いと思います。私も長年、波止釣りから渓流釣りまで、様々な釣りをしてきました。
私は、波止釣りや磯釣りなどの海釣りが好きで、特に磯釣りに関しては、一時期は毎週のように東伊豆に通っていたことがあります。なぜ海釣りが好きかと言うと、やはり当たりのダイナミックさと味です。豆アジでもサビキ(擬餌針が5~6本ついた仕掛け)で3匹ぐらい同時に掛けると、ビビビッという小気味よい当たりが楽しめますし、30cmオーバーのグレが釣れた時などは、その引きの強さに痺れます。そして、釣った後は、締めてクーラーボックスに入れて帰れば、最高の酒のアテになるわけです。

問題は、この「味」です。特に大型のグレなどは、奇麗に締めて血抜きをしないと、持って帰っても身に血が回て生臭くなります。ですので、釣り終わったら、その場で血抜きをするためのナイフが必要となります。私は、えら蓋からナイフを突っ込んで中骨を切り、えら周りを切って血抜きをしていました。
このように、「味」を美味しく保つためには、締めるためのナイフが重要になります。始めはBUCKの安いフォールディングナイフを使っていたのですが、420Cなどの標準的なステンレス鋼では、あっという間に錆が出てしまいます。血抜きは、釣った現場で行うため、海水しかなく、ナイフを洗うにも海水で洗って、タオルで拭き取るぐらいしかできません。その後家に持って帰って洗うのですが、数回使用しただけでブレードに錆が浮いてしまいました。
まあ、錆びは仕方がないので消耗品として割り切っていたのですが、サビナイフと出会って、目からウロコでした。

本当に錆びないサビナイフ


サビナイフに使用されているH-1鋼について調べてみると、サビナイフの製造元であるG・サカイのホームページに下記の記載がありました。
日本金属工業㈱で開発された高強度オーステナイト鋼を、刃物用材に明道金属㈱が調質加工を加え生まれた合金。塩分、海水でも強い耐食性を向上させた。調質加工により、靭性、硬さが得られているために刃持ちがよく、また一般砥石でも研ぐことができる。
使ってみると、確かに「錆びない」は伊達ではなく、血抜きをしてそのままクーラーボックスに入れて持って帰るなどしても、全く錆びません。ナイフ鋼材の中では耐食性に優れていると言われる440Aでも、ここまでの耐食性は無く、海で使っていると赤茶色の錆が出てくるのですが、H-1は耐食性においてはまさに異次元の強さを誇っています。

実際に、G・サカイが1年間塩水に浸ける実験を行っているので、是非ご覧下さい。特に、動画は社長がオモシロいので一見の価値ありです(笑)

また、ハンドルもFRN(ガラス繊維強化ナイロン)ですので、汚れや塩分を気にする必要が無く、魚を締めるのには理想的です。気になるのがハンドルをネジ止めしているのですが、そのネジが錆びないかという点です。これについても抜かりなく、H-1ほどでは無いにしても耐食性の高い18-8ステンレスが使われています。


サビナイフは、直刀のサビナイフ1から、出刃型の4、日本の漁労現場で伝統的に使われてきたマキリを模った8など、様々なタイプが販売されています。そんな中で、私は最もスタンダードな1を選びました。

サビナイフ2
出典:G・サカイ

サビナイフ2は、ポイント(刃先)からスパイン(峰)側にスウェッジと言う刃が付いており、より刺さりを重視したデザインになっています。魚を締めるナイフですので、2でも良かったのですが、出刃替わりに魚を捌いたりすることも考慮し、あえて1を選びました。


ブレード長は92mmとシースナイフとしては少し小ぶりですが、小出刃としては丁度良いサイズで、重量も89gと軽量なのが良いです。流石の私も釣り座でデカくてヘビーなブラボーなどを使う気にもならなず、小型・軽量なナイフは重宝します。磯釣りをやったことがある方ならお分かりになると思いますが、磯釣りはコマセのオキアミだけでも1日で6キロは必要で、装備重量全体が重くなります。しかもそんな装備を担いで、磯場を場合によっては30分以上歩く場合もあるので、装備は1グラムでも軽くしたい訳です。そんな点でも、サビナイフ1は釣りに向いているといえます。
尚、刃厚は2.5mmと薄いですが、これでバトニングやることは100%ありませんので、問題なしです。むしろ、厚すぎない刃厚は、魚を捌くのにも適しており、血抜きから調理にまでオールマイティーに使えるナイフです。

切れ味


H-1鋼は、耐食性に振った性能のため、炭素が極端に少ない鋼材とのことです。鋼材製造元の明道金属(現:明道メタル株式会社)のホームページを見ても鋼材の成分組成が出ていないので何とも言えませんが、錆びの原因は鉄が酸化するためで、炭素とは直接関係はありません。
ここで、ステンレス鋼材について少しご説明します。通常のステンレスは、炭素鋼にクロムを添加して錆びに強くした鋼材です。炭素鋼は鉄と炭素からできていますが、鉄は水などと結びつくことで酸化つまり錆びます。炭素鋼にクロムを添加すると、クロムの働きにより鋼材表面に酸化被膜(不導体被膜)が形成されます。この酸化被膜が、鋼材全体を覆うことで、鉄に直接酸化物が触れなくなるため、錆びにくくなるという訳です。尚、クロムによりできる酸化被膜は、鋼材にキズが付いたりして被膜が剥がれても、すぐに修復します。そのため、砥石で研いでも、すぐに酸化被膜が修復されるので耐食性が維持されるという訳です。
ちなみに、炭素の役割ですが、鉄に炭素が含まれていると、熱処理することで鉄の性質をコントロールすることができるからです。この熱処理には、硬度を上げて切れ味を高める「焼き入れ」、刃に粘りを出して欠けにくくする「焼き戻し」、鋼材成分の安定化を図りひずみを取る「焼きなまし」などの処理方法があり、これらを駆使することで、ナイフの切れ味や粘りを調整することができます。ちなみに、炭素量が多ければ多いほど、焼き入れによって硬度を高めることが出来るため、切れ味を上げることが出来ますが、クロムは熱処理する時に炭素と結合してしまうため、クロム量が多いと焼き入れ時に炭素量が減少し、硬度が低くなります。逆に、クロム量が少ないと、充分に酸化被膜が形成できず、錆びやすくなってしまいます。一般的にステンレスは炭素鋼に比べて切れ味が悪いと言われているのは、耐食性を上げるためにクロムを添加したことで炭素量が減少し、焼き入れによる硬度が下がっているためです。
H-1鋼が抜群の耐食性を誇っていることからも、クロムを多量に添加していることは間違いなく、その影響で炭素量が激減していると思われます。通常、ここまで炭素量を減らしてしまうと硬度も下がるため、切れ味と刃持ちが極端に悪くなるのですが、サビナイフ1は、それほど切れ味が悪いとは感じません。感覚的には、440Cなどの鋼材に比べれば切れ味は劣ると思いますが、業務用ステンレス包丁などに使われている、モリブデン鋼のナイフと比較して、同等かそれ以上の切れ味が実感できます。
但し、箱出しでは微妙な切れ味ですので、まずは砥石で研いだ方が良いです。それにしても、異次元の耐食性の割には良く切れるナイフですので、明道メタル株式会社の「調質加工」と言われるものが一体何なのか謎は深まります。

※440C:代表的なナイフ鋼材。硬度と耐食性、靭性のバランスが良く、コストパフォーマンスが良いため、5千円~1万円ぐらいの中級ナイフ鋼材として良く使用されている。

耐久性

耐食性以外の面で言うと、耐摩耗性については、普通程度と言えます。数回の釣行で使用したぐらいでは全く問題ありませんし、5~6匹捌いても切れ味の落ちは感じません。硬度がそれほど高くないので研ぎやすく、普段使いにも向いているナイフです。
また、靭性が比較的高いと思われ、グレやタイなどの硬い骨を切っても、刃が欠けることなく普通に使えます。

握りやすさ・取り回し

ハンドルは、スパイン側がわずかにカーブしており、握る部分にくぼみが設けてあります。FRN(ガラス繊維強化ナイロン)製で表面加工もザラッとした感触に仕上げられているため、滑りにくく握りやすいです。


構造はフルタングですので、シースナイフとしての強度も十分です。
指を掛けるランプが、ブレード側とハンドル側の2か所にあるので、捌く時の持ち方に合わせてランプが使えるように工夫されています。


ただ、ブレード側のランプは大きく凹んでおり、私としてはちょっと微妙な感じがして手になじみません。
また、ハンドル側のランプは、FRNのハンドル部分だけにギザギザが入っているので、中途半端な感じは否めません。タングの方にも同様のギザギザが刻んであれば、滑り止め効果が高くなってより良かったと思うので、少し残念な部分ではあります。

使い勝手

ブレード全体が葉っぱのような形状で、ポイントが結構尖っているので、出刃包丁より魚を刺すのに向いています。また、エッジも全体に緩やかなカーブを描いているため、魚を捌いたりするのがやりやすいです。
ブレード形状が、ホローポイントになっていることもあり、捌く時に身離れが良く、両刃ではありますが、綺麗に魚を捌くことが出来ます。
あと、FRNのシースが独特の形状をしており、様々なカスタマイズが可能になっています。


具体的には、コアロックベルトクリップという機構が採用されており、ベルトクリップの角度を自由に変えることができます。


角度調整は、ベルトクリップと本体ケースがネジ止めされているので、ネジを緩めて行います。


ネジ回りには噛み合わせがついているため、ある程度締め付ければ使用中に角度が変わることもありません。
また、ベルトクリップの位置も調整可能な構造になっており、本体ケース周りの取り付け穴の位置を変更することで、ベルトクリップの高さを調整することが出来ます。


総評

とにかく錆びに強いという点では、海で最も使いやすいナイフです。ブレードデザインはちょっとユニークですが、刺す、切る、削ぐという動作がやりやすく、魚を捌くだけでなく、意外とフェザースティックなども作りやすいです。
価格もリーズナブルなので、最初の1本としてもおススメできます。
釣りメインの視点でレビューしてきましたが、別にそれ以外の場面でも十分使えるナイフですので、もしよかったら1本買って使い倒してみてください。

H-1鋼材が生産中止に

2021年3月現在、H-1鋼材が生産中止になっているようです。
G・サカイのブログに掲載されていた情報ですから間違いありません。
H-1はとにかく錆に強い鋼材で、世界でも唯一無二と言える鋼材ですから、今のうちに購入することをおススメします。



私も、とりあえずサビナイフ1、2、マキリの計3本を追加購入しました。
残念ながら、サビナイフ2は、既にG・サカイも鋼材のストックが切れたようで、別の高耐食性ステンレスに置き換わっています。スペック的には同等品のようですが、H-1ほどの耐食性があるかは不明です。

私が購入したサビナイフ2。「H-1 STEEL」のロゴが無い。

サビナイフは、他にも出刃タイプなど様々なモデルがあるので、H-1鋼かどうか注意して見ながら購入してください。




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